2024年10月11日
ポイント
●独自に開発した不斉有機触媒により、シクロプロパンを持つアルカンの立体選択的な開裂に成功。
●中間体として五配位型の炭素カチオン中間体(カルボニウムイオン)が関与していることを解明。
●数工程を要する原油から高付加価値のある化合物への変換反応の加速化に期待。
概要
北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の辻 信弥特任准教授、リスト・ベンジャミン特任教授、WPI-ICReDD及び同大学大学院理学研究院の前田 理教授らの研究グループは、シクロプロパンを持つ飽和炭化水素化合物の立体選択的開裂反応の開発に成功しました。飽和炭化水素化合物は原油の主成分であり、ヘテロ原子や不飽和結合を持たない「すべすべ」な分子です。それらを医薬品などへの中間体に直接変換することは理想的とされてきましたが、一般的に相互作用可能な官能基不在の基質を触媒的に立体制御することは極めて難しく、これまでの成功例はほとんどありませんでした。さらに、従来の研究では、ほとんどが反応性の高いC-H結合の活性化を対象としており、より低活性なC-C結合の立体選択的な活性化反応に成功した例はこれまでにありませんでした。
本研究では、原油の接触分解反応において酸によるC-C結合開裂反応が五配位型カルボニウムイオンを経由して進行することをヒントにして、微小な反応場を持つ不斉有機触媒を用いることで課題を解決しました。研究グループは、触媒のポケット内に酸性度の高い活性部位を仕掛け、シクロプロパンを持つ飽和炭化水素化合物が、狙った通りの反応を起こす向きに制限して回転するよう設計することで、プロトン化による選択的な開裂反応に成功し、その結果、付加価値の高いアルケンへと変換することに成功しました。
計算化学による詳細な解析の結果、予想通りの高い選択性により、シクロプロパンがプロトン化されることで五配位型カルボニウムイオンが触媒ポケット内で生成され、その中間体がロンドン分散力や静電的相互作用といった繊細な分子間相互作用によって緻密に制御されながら反応が進行していることが明らかになりました。
なお、本研究成果は、2024年10月11日(金)公開のScience誌に掲載されました。
論文名:Catalytic Asymmetric Fragmentation of Cyclopropanes(シクロプロパンの触媒的不斉開裂反応)
URL:https://doi.org/10.1126/science.adp9061
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