2024年11月22日
北海道大学
神戸大学
ポイント
●冬季の常緑針葉樹が光化学系の集光タンパク質で光エネルギーを熱として放散していることを発見。
●ELIPとよばれるタンパク質が冬季の葉緑体に大量に蓄積していることを発見。
●ELIPを介したエネルギー変換が活性酸素の生成を抑制し、葉の緑色を維持するという仮説を提唱。
概要
北海道大学低温科学研究所のヨウ・シゴウ氏、高林厚史助教、田中亮一教授、神戸大学大学院理学研究科の秋本誠志教授、基礎生物学研究所環境光生物学研究部門の横野牧生准教授、森林総合研究所の北尾光俊主任研究員らの研究グループは、冬季の常緑針葉樹ではELIPとよばれる葉緑体タンパク質が大量に蓄積し、光エネルギーを熱として放散する過程に関わることを明らかにしました。
冬季の寒冷圏の常緑樹は吸収した光のエネルギーの大半を熱として放散しており、実質的に光合成を行っていないことは知られていましたが、その仕組みは明らかではありませんでした。研究グループは常緑針葉樹の一種であるイチイを研究材料とし、ピコ秒単位(注:ピコ秒は1秒の1兆分の1の時間)での蛍光の測定、一年を通しての遺伝子の発現、光合成タンパク質及び光合成色素の量の測定、タンパク質の構造予測などの解析を複合的に組み合わせることによって、ELIPがこの仕組みにおいて重要であることを示しました。これらの結果をもとに、冬季の寒冷圏の常緑樹は、集光タンパク質が吸収したELIPを介して光エネルギーを熱に変換し、放散することで、活性酸素の生成を抑制し、葉緑体のタンパク質を保護することで葉の緑色を維持する、という新たな仮説を提唱しました。この仮説は2006年にアメリカで提唱された仮説をさらに発展させたものです。
なお、本研究成果は、2024年11月22日(金)公開のJournal of Experimental Botany誌に掲載されました。
論文名:Revisiting the early light-induced protein hypothesis in the sustained thermal dissipation mechanism in yew leaves.(イチイの葉における持続的熱放散メカニズムのearly light-induced protein仮説を再考する)
URL:https://doi.org/10.1093/jxb/erae412
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冬季の寒冷圏の常緑樹は、吸収した光エネルギーを光合成反応には使わずに熱として逃がしている