2024年11月25日
ポイント
●左背外側前頭前野における経頭蓋ランダムノイズ刺激が若年成人のワーキングメモリの増強に寄与。
●ワーキングメモリの成績が低い人ほど大きな効果が得られる可能性。
●ワーキングメモリの低下をきたす様々な疾患への経頭蓋ランダムノイズ刺激の臨床応用に期待。
概要
北海道大学大学院保健科学研究院の澤村大輔教授、同大学大学院保健科学院修士課程修了生(現:札幌秀友会病院)の時國幸奈氏らの研究グループは、臨床への応用が期待される経頭蓋電気刺激(tES)の一つである経頭蓋ランダムノイズ刺激(tRNS)のワーキングメモリ(WM)増強効果に着目し、その他のtESの効果との比較によりtRNSの効果を初めて明らかにしました。
tESは頭皮に装着した電極から微弱な電流を流すことにより大脳皮質及び皮質下の神経細胞の興奮性を調節する非侵襲的な脳刺激法であり、近年、神経可塑性を誘導するニューロモデュレーションの手法として神経生理学、リハビリテーション科学分野で注目されています。これまで代表的なtESである経頭蓋直流電気刺激(tDCS)のWMの増強効果は確認されてきましたが、比較的最新の手法であるtRNSの効果は十分に示されていませんでした。しかしながら、プラセボ刺激(シャム刺激)に対するtRNSの効果量がtDCSのそれよりも大きいことを示す報告が知覚、運動機能を中心に散見されていたことから、同様にWMにおいてもtRNSが他の刺激条件よりも顕著な増強効果を示すという仮説を立てました。
右利きの健康な若年成人120名を対象とし、tRNSと既に一定のエビデンスが確立されているtDCSを含む四つの刺激群に無作為に割り付け、刺激中及び刺激後のWM課題成績を比較しました。その結果、tRNS条件において有意なWM課題の成績向上が認められました。また、tRNS条件では、WM課題の成績が低い人ほどその効果が大きくなることを示す、大きな負の勾配を持つ直線関係が示されました。
本研究の成果は、tRNSがWMの改善において有望な介入手法であることを示唆するものであり、WM低下をきたす脳損傷や神経変性疾患、精神疾患におけるtRNSの臨床応用につながることが期待されます。
なお、本研究成果は、2024年10⽉14⽇(月)オンライン公開の Journal of NeuroEngneering and Rehabilitation誌に掲載されました。
論文名:Differing effectiveness of transcranial random noise stimulation and transcranial direct current stimulation for enhancing working memory in healthy individuals: a randomized controlled trial(健常者のワーキングメモリに対する経頭蓋ランダムノイズ刺激と経頭蓋直流電流刺激の有効性の差異:無作為化比較試験)
URL:https://doi.org/10.1186/s12984-024-01481-z
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