2024年11月27日
ポイント
●膠芽腫幹細胞(GIC)に発現している膜タンパク質EVA1に対する高親和性抗B2E5の作製に成功。
●GICを脳に移植した脳腫瘍モデルマウスに対する、MMAEを結合させたB2E5の強い抗腫瘍効果を確認。
●B2E5-ADCは低副作用で、いくつかの難治がんに対して有効な治療法となることが期待。
概要
北海道大学遺伝子病制御研究所の近藤 亨教授らと理化学研究所の白水美香子チームリーダーらの研究グループは、GICに発現している膜タンパク質EVA1に対する高親和性抗体B2E5を作製し、GICを脳に移植した脳腫瘍モデルマウスを用いて、細胞傷害性因子モノメチルアウリスタチンE(MMAE)を結合させたB2E5(B2E5薬物複合体、以下、B2E5-ADC)が強力な抗腫瘍効果を発揮することを明らかにしました。
膠芽腫(GBM)は、脳組織内の神経膠細胞から発生する、最も悪性度の高い神経膠腫(グリオーマ)です。脳という、外科的手術が困難な部位にあることから、取り残したGBM細胞、特にGBMの親玉細胞(GBM幹細胞、以下、GIC)が再発の原因となってしまう、難治性脳腫瘍として知られています。加えて、GICは様々な抗がん剤や放射線療法に対して抵抗性を示し、再発の原因細胞として考えられています。過去20年以上、有効な治療法が確立されていない主な原因の一つは、GICを標的とした治療法が開発されていなかったことであり、GICの性状解析や特異的因子の同定は新規治療法につながると考えられていました。
そこで研究グループは、EVA1に対する高親和性抗体B2E5を作製し、GICを脳に移植した脳腫瘍モデルマウスに投与することで、B2E5-ADCが、がん細胞を死滅させる効果があることを証明しました。
EVA1は、膠芽腫を含む様々なグリオーマに加えて、急性骨髄性白血病、乳がん、肺がん、膵がんで発現が検出され、その予後と相関していることが分かっています。このため、B2E5-ADCはこれら難治がんの治療にも利用可能と考えられます。また、生体内のEVA1発現は一部の脂肪組織や造血系細胞に限られることから、B2E5-ADCの副作用は限定的であると考えられます。
今後は、ヒト化B2E5抗体の作製とその臨床応用が期待されます。
なお、本研究成果は、2024年11月24日(日)、Neuro-Oncology誌にオンライン公開されました。
論文名:EVA1-Antibody Drug Conjugate is a new therapeutic strategy for eliminating glioblastoma-initiating cells(EVA1抗体薬物複合体は膠芽腫幹細胞を殺傷する新しい治療戦略である)
URL:https://doi.org/10.1093/neuonc/noae226
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