2024年12月11日
ポイント
●出血性大腸菌O111抗原亜型株の迅速同定とその抗原構造決定に成功。
●大腸菌O111のバイオリソース菌株と市販リポ多糖の変異型混在を実証。
●新型感染症、ワクチン開発、機能性食品開発の迅速化に期待。
概要
北海道大学大学院先端生命科学研究院の比能 洋教授と同大学大学院生命科学院博士後期課程のリー・ジューン・チェリン氏及び浦上彰吾氏らの研究グループは、O111型の腸管出血性大腸菌及びO111由来の市販リポ多糖に、それぞれ既知のO111型抗原多糖とその亜型が混在していることを迅速同定・発見しました。また、核磁気共鳴法(NMR)を用いて亜型O111型抗原多糖の化学構造を決定しました。
大腸菌などのグラム陰性菌は、リポ多糖と呼ばれる糖脂質で覆われており、最外部にO抗原と呼ばれる繰り返し多糖を提示しています。O抗原は微生物の生存戦略に伴う多様性を有します。大腸菌ではこれまでに200種以上の繰り返し多糖構造が報告され、食中毒や感染症の疫学指標、ワクチン抗原等として利用されています。
本成果は、研究グループが開発したMALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)グリコタイピング法を用いた腸管出血性大腸菌のO抗原解析により、O111型抗原多糖の変異型を発見し、さらには化学構造の決定に成功したものです。
O抗原は抗体による迅速診断やワクチン治療の標的となります。そのため抗原の変異は既存の方法での診断・治療を難しくする原因になります。MALDIグリコタイピング法は従来の抗体検査やPCR検査と異なり、O抗原多糖構造を直接解析する技術であるため、既知のO抗原の同定に加え新型(変異型)も解析可能です。また、解析から得られたO抗原の糖鎖構造パターン情報をインターネット経由で共有することにより、世界中で診断に使用することが可能となります。
MALDIグリコタイピング法は、同一装置で「大腸菌O111」など「菌種+糖鎖型」情報の同定を可能とします。また微生物の持つ多糖は発酵食品の食感や免疫賦活機能等にも深く関与します。本技術は臨床微生物学分野にとどまらず、食品産業、物流の安全保障など、幅広い分野での活用が期待されます。
なお、本研究成果は、2024年11月4日(月)公開のInternational Journal of Biological Macromolecules誌に掲載されました。
論文名:Integration of MALDI glycotyping and NMR analysis to uncover an O-antigen substructure from pathogenic Escherichia coli O111(MALDIグリコタイピングとNMR解析による病原性大腸菌O111由来O抗原変異構造の発見)
URL:https://doi.org/10.1016/j.ijbiomac.2024.137178
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