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ボールミルを用いた化学反応では、生成物の「流れ」が反応を加速することを理論的に予言~有機化学とレオロジーの融合研究でメカノケミストリーにおける力の寄与の理解に迫る~(創成研究機構化学反応創成研究拠点 特任准教授 山本哲也)

2024年12月19日

ポイント

●ボールミルを用いた固体有機反応の化学反応速度を予言するスケーリング理論の構築に成功。
●ボールミルによって加わる力が生成物の「流れ」を誘起し、反応を加速することを予言。
●ボールミル反応における力学的な作用が化学反応を加速する機構の解明に期待。

概要

北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の山本哲也特任准教授、原渕 祐特任准教授、WPI-ICReDD及び同大学大学院工学研究院の久保田浩司准教授、伊藤 肇教授らの研究グループは、有機化学とレオロジーの融合研究によって、ボールミルによるメカノケミストリー有機合成の化学反応速度を予言する理論の構築に成功しました。

従来の希薄溶液中での有機合成とは異なり、ボールミルを用いたメカノケミカル有機合成は、溶媒を必要としない、効率的な合成法として注目を集めています。この合成法では、しばしば、反応物が固体状態のまま、合成が行われます。これまでのメカノケミカル合成の研究において、ボールによって反応物に加わる力が化学反応を加速することが示唆されてきましたが、その原理は未解明でした。理論的アプローチでは、分子スケールのミクロな現象を理解するための量子化学によるアプローチや、反応物粒子スケールのマクロな現象を理解するための粉体物理によるアプローチが用いられてきましたが、両者の長さスケールが離れているために、マクロな力がミクロな化学反応にどのように寄与するかということに対する十分な理解が得られていませんでした。固体反応物の化学反応は、両者の界面で起こります。本研究では、ミクロとマクロの中間のスケールにあたる、界面の長さスケールに注目し、有機合成化学と分子レオロジーの融合研究によって、力学的な作用が化学反応を加速する機構の解明に挑戦しました。

本理論は、二つの固体反応物の界面に、生成物を主に含む層が形成され、この層での反応物分子の拡散が反応速度を決定することを予言します。ボールが衝突して、界面に力が加わると、生成物層で物質の流れが生じ、拡散が速くなることが、力による化学反応の加速の原因の一つであることが本研究によって明らかになりました。本研究は、反応物と生成物の力学的性質の設計を通して有機合成の反応を制御する、ボールミルによる化学プロセス設計論に波及することが期待されます。

なお、本研究成果は、2024127日(土)公開のRSC Mechanochemistry誌に掲載されました。

論文名:Scaling theory for the kinetics of mechanochemical reactions with convective flow(物質流がある場合のメカノケミストリー反応速度のスケーリング理論)
URL:https://doi.org/10.1039/D4MR00091A

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