2024年12月20日
北海道大学
東北大学
ポイント
●メカノケミカル合成前に試薬を乳鉢と乳棒で短時間手混合するだけで、固体電解質の性能が劇的に向上。
●手混合により結晶化挙動が変化し、固体電解質のイオン伝導度が最大で1桁向上。
●この発見は、効率的・論理的な新規電解質材料の探索、ひいては全固体電池開発の加速に繋がる。
概要
北海道大学大学院工学研究院の藤井雄太助教、三浦 章准教授、東北大学多元物質科学研究所の大野真之准教授、島根大学材料エネルギー学部の尾原幸治教授、サカリア大学のアブデュルガディル・カジラスラン助教、広島大学大学院先進理工系科学研究科の森吉千佳子教授、高輝度光科学研究センターの河口彰吾主幹研究員らの研究グループは、次世代電池である全固体電池に用いられる固体電解質において標準的な手法であるメカノケミカル合成について、短時間の手混合(手混ぜ)によって合成された固体電解質のイオン伝導度が劇的に変化することを発見しました。
近年、高エネルギー密度と高い安全性を兼ね備えた全固体電池が、電気自動車やモバイル機器の次世代電源として注目を集めています。この全固体電池の実現には、高いイオン伝導度を持つ固体電解質の開発が不可欠です。
研究グループは、固体電解質のメカノケミカル合成において、これまで見過ごされてきた「予備混合(premixing)」工程の重要性を初めて体系的に明らかにしました。予備混合とは、ボールミリングを行う前に、原料粉末を乳鉢と乳棒で混合するだけの簡単な工程です。
驚くべきことに、このシンプルな予備混合の有無が、合成される固体電解質の構造やイオン伝導度に劇的な影響を与えることが分かりました。例えば、硫化物系固体電解質Li₇P₃S₁₁やハロゲン系固体電解質NaTaCl6の合成において、予備混合を行うことでイオン伝導度が大幅に向上することを実証しました。
予備混合の効果は、NMR、PDF解析、SEM観察などを用いた詳細な分析により、原料の均一性と密接に関係していることが示唆されました。予備混合を行わない場合、原料の局所的な不均一性が生じ、これが最終生成物の特性のばらつきに繋がると考えられます。さらに、ボールミリングにおいて、原料の機械的特性の違いによる粉砕媒体への付着性の差も、組成の不均一性の一因となる可能性を指摘しました。
なお、本研究成果は2024年12月16日(月)に公開の米国化学会誌ACS Energy Lettersにオンライン掲載されました。
論文名:The Detail Matters: Unveiling Overlooked Parameters in the Mechanochemical Synthesis of Solid Electrolytes(細部が肝:固体電解質合成における見落とされた重要パラメータの発見)
URL:https://doi.org/10.1021/acsenergylett.4c02156
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