2024年12月9日
ポイント
●難治性の悪性リンパ腫「末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)」の新規治療標的を解明。
●CRISPR-Cas9スクリーニングにより、PTCLのBV感受性に関与する遺伝子を同定。
●BVへの治療抵抗性克服に向けた臨床応用に期待。
概要
北海道大学大学院医学院博士課程4年の須藤啓斗氏と同大学大学院医学研究院の中川雅夫助教らの研究グループは、難治性の悪性リンパ腫「末梢性T細胞リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma; PTCL)」の新規治療標的を解明しました。
PTCLは成熟T細胞に由来する悪性リンパ腫で、悪性リンパ腫全体の約7%を占める希少疾患です。PTCLは一部の病型を除き既存の治療に対する反応性が乏しく、新しい治療法の開発が求められています。PTCLではCD30が高率に陽性であり、同分子を標的とした抗体薬物複合体のブレンツキシマブベドチン(BV)が広く使われていますが、奏効率は十分ではなく、BVへの抵抗性の克服が予後の改善につながります。
今回の研究では、新規ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9を用いてCD30陽性PTCL細胞株内の約20,000種類の遺伝子を網羅的にノックアウトさせ、どの遺伝子がBVへの感受性に関与するかをスクリーニングしました。これにより、有糸分裂チェックポイント複合体(MCC)の阻害因子として知られる、MAD2L1 binding protein(MAD2L1BP)とanaphase promoting complex subunit 15(ANAPC15)がBVへの感受性亢進に関わることを見出しました。
これを踏まえ、研究グループはMAD2L1BPをノックアウトすることでBVの抗腫瘍効果が増強することを細胞株及びマウスモデルを用いて解明しました。さらに、BVとAPC/C阻害薬のproTAMEを併用することで細胞周期の停止を誘導し、相乗的な細胞傷害作用を示すことも見出しました。
今回の結果から、MCC-APC/Cを軸とした新規治療標的がBVの抵抗性克服に重要である可能性が示され、今後の臨床応用が期待されます。
なお、本研究成果は、2024年10月21日(月)公開のLeukemia誌にオンライン掲載されました。
論文名:Genome-wide CRISPR screen identifies MAD2L1BP and ANAPC15 as targets for brentuximab vedotin sensitivity in CD30+ peripheral T-cell lymphoma(全ゲノムCRISPRスクリーニングによりCD30陽性PTCLに対しMAD2L1BPとANAPC15がBV感受性を増強する新規治療標的であることを同定)
URL:https://doi.org/10.1038/s41375-024-02441-1
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