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歩行動画から小脳性運動失調の重症度評価を行うAIの開発~遠隔診療や新薬開発臨床試験での有効性評価などへの応用に期待~(医学研究院 教授 矢部一郎)

2025年1月30日

北海道大学
北海道脳神経内科病院

ポイント

●脊髄小脳変性症患者の歩行から小脳性運動失調の重症度を予測する深層学習モデルの開発に成功。
●一般のビデオカメラで歩行を撮影するだけで、簡便に重症度の評価が可能。
●遠隔診療や新薬開発臨床試験での新たな有効性評価方法としての応用が期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の江口克紀客員研究員、矢口裕章准教授、矢部一郎教授らの研究グループは、北海道脳神経内科病院(森若文雄院長、武井麻子副院長、濱田晋輔理事長ら)との共同研究において、深層学習モデルを利用して歩行動画から小脳性運動失調の重症度を予測する手法を開発しました。

脊髄小脳変性症(Spinocerebellar degeneration: SCD)は小脳性運動失調を主症状とする神経変性疾患です。その治療やリハビリテーションの方針の決定には、小脳性運動失調がどの程度重い状態にあるか、重症度の評価が重要です。現在、SCDではその重症度を推定するためのバイオマーカーは十分に開発されておらず、重症度の評価は医師の診察に基づいて主観的に行われています。しかし、診察による重症度の評価は医師の経験や技量によりずれが生じることがあり、より客観的な重症度評価方法の開発が望まれていました。

今回、研究グループは、SCD患者の歩行の様子を撮影したビデオに深層学習モデルを適用し、現在主に用いられている小脳性運動失調の重症度評価スケールであるScale for the Assessment and Rating of AtaxiaSARA)の点数の予測を行う手法を開発しました。この手法は特殊な検査機器や診察技術を必要とせず、ビデオカメラのみを用いて簡便にSCD患者の重症度を評価することが可能です。この手法により、患者の通院負担及び医師の診療負担の軽減、遠隔診療や、新薬を開発するための臨床試験での新たな有効性評価方法への応用などが期待されます。

本研究成果は2025122日(水)公開のMovement Disorders誌にオンライン掲載されました。

論文名:Gait Video-Based Prediction of Severity of Cerebellar Ataxia Using Deep Neural Networks(深層ニューラルネットワークを利用したビデオに基づく小脳性運動失調の重症度予測)
URL:https://doi.org/10.1002/mds.30113

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本研究の解析の流れを示した図。患者の歩行の様子をビデオで撮影し、関節など体の一部の動きを数値化して深層学習モデルに入力することで、重症度を予測する。