2025年2月18日
ポイント
●生体膜との融合性を促進する双性イオン性リン脂質の開発によりmRNA送達効率を向上。
●mRNA送達効率を向上させる双性イオン性リン脂質の分子設計の指針を解明。
●双性イオン性リン脂質の分子設計による脂質ナノ粒子の高機能化戦略を新たに提案。
概要
北海道大学大学院薬学研究院の佐藤悠介准教授、同大学大学院生命科学院修士課程の岩川和樹氏(研究当時)の研究グループは、脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle: LNP)のmRNA送達能を向上させる双性イオン性リン脂質の開発に成功しました。
mRNA医薬品は理論上あらゆるタンパク質を発現可能であることから、非常に有望な治療モダリティです。しかし、生体内で分解されやすいため、医薬品応用のためには薬物送達技術(drug delivery system: DDS)が必須です。mRNA用DDSとして最も進んでいる技術はLNPであり、COVID-19ワクチンにも採用されています。
現在、LNPの高機能化は主要な構成成分であるイオン化脂質の大規模探索が主流です。これにより、これまでにmRNA導入性能の飛躍的な向上が達成されています。一方で、mRNA導入効率は未だ改善の余地が大きく残されています。また、イオン化脂質以外のリン脂質などのLNP構成脂質の分子設計によるLNPの高機能化に関する試みはほとんどなされていませんでした。
研究グループは、LNPの生体膜との融合性改善によるmRNA送達効率の更なる向上を目指し、天然リン脂質を原材料として単純なプロセスにより製造可能な双性イオン性リン脂質(DOPE-Cx)を合成しました。LNP構成脂質として汎用されるリン脂質をDOPE-Cxに置換することでmRNA導入効率の改善に成功しました。また、DOPE-Cxの構造が生体膜と相互作用した時に誘導する脂質多型への影響や、その脂質多型とmRNA導入効率の改善効果に関連性が見出されました。今回開発された双性イオン性リン脂質DOPE-Cxは、広範なmRNA搭載LNP医薬品への利用が期待されます。
なお、本研究成果は、2025年2月17日(月)公開のAdvanced Science誌に掲載されました。
論文名:Cubic Phase-Inducible Zwitterionic Phospholipids Improve the Functional Delivery of mRNA(立方相誘導性双性イオン性リン脂質は機能的なmRNA送達を改善する)
URL:https://doi.org/10.1002/advs.202413016
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