2025年2月19日
ポイント
●独自の液体培養法を開発し、微生物によるフラノステロイド群の安定かつ作り分け生産に成功。
●本開発技術は高濃度で13Cラベル化されたフラノステロイド群の獲得も可能。
●新規抗がん剤開発研究の発展、フラノステロイド群の合成経路解明に期待。
概要
北海道大学大学院農学研究院の橋本 誠教授、村井勇太准教授らの研究グループは、pHを調整した液体培地上で糸状菌Trichoderma virensを生育させることで、フラノステロイド群の安定、かつ、それらの作り分けを可能とする技術を開発しました。
糸状菌の二次代謝産物であるビリジン、ビリジオールは希少フラノステロイドであり、がんの発生や転移促進に関わるホスファチジルイノシトールリン脂質キナーゼを強く阻害(50%阻害濃度~5nM)することが知られており、創薬のターゲットになっています。しかし、微生物のほとんどはその生育に二次代謝産物を必要としないため、単独培養で安定的に得ることが困難です。また、それら全合成が報告されていますが、高度な有機合成技術や、時間、費用が必要となります。
本研究では、pHを調整した液体培地上でTrichoderma virensを振とう培養させるのみで、ビリジン、ビリジオールの選択的な生産方法を確立しました。pH3の培養条件ではビリジンを約50mg/L、pH2の培養条件ではビリジオールを約60mg/Lで得ることに成功しました。また、β-ビリジンはビリジンの立体異性体であり、その絶対配置はこれまで明らかにされていませんでした。今回、安定的なビリジン供給技術を確立したことで、ビリジンからβ-ビリジンへの不可逆的な変換方法を確立し、再結晶化にも成功しました。その結果、β-ビリジンをX線結晶解析、及び振動円二色性スペクトル解析することにより、その絶対配置を明らかにしました。
さらに本技術は、培地成分を汎用されるポテトデキストロースブロス(PDB)からポテトインフュージョン、栄養源に安定同位体13C置換されたグルコースを用いることで高濃度の13Cラベル化されたビリジン、ビリジオールの獲得にも成功しました。
これらの研究成果は、今後の新規抗がん剤開発研究にとって有益な情報を提供するとともに、未だ完全な生合成経路が分かっていないフラノステロイド群の合成経路解明に役立つと期待されます。
なお、本研究成果は、2025年1月24日(金)公開のScientific Reports誌にオンライン掲載されました。
論文名:Scalable preparation of furanosteroidal viridin, β-viridin and viridiol from Trichoderma Virens(Trichoderma Virensによるフラノステロイド性ビリジン、β-ビリジンおよびビリジオールのスケーラブル調製)
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-025-87070-z
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