新着情報

ホーム > プレスリリース(研究発表) > お粥の"とろみ"を科学する~嚥下食の流動予測及び安全性向上に期待~(工学研究院 教授 田坂裕司)

お粥の"とろみ"を科学する~嚥下食の流動予測及び安全性向上に期待~(工学研究院 教授 田坂裕司)

2025年2月7日

ポイント

●従来手法では計測が難しいお粥の流動物性評価に成功。
●流動物性データを基に広がりや流下挙動を予測することが可能に。
●物性評価と流動予測による嚥下食の安全性向上に期待。

概要

北海道大学大学院工学研究院の大家広平氏(日本学術振興会特別研究員PD)、田坂裕司教授、村井祐一教授、並びに北海道大学病院栄養管理部の熊谷聡美栄養士長らの研究グループは、ミリサイズの具材を含む食品の流動物性を安定的に計測する手法を開発し、お粥に代表される流動食品の物性評価及び流動予測に成功しました。

日本では人口の超高齢化に伴い、嚥下障害を抱える方が急速に増加しています。そのため病院や介護施設の食事は、安全性を高めるために刻む・すりつぶすなど食品の粒子を細かくしたり、とろみを付けたりして提供されています。特にお粥は一食のうち半分程度のカロリーを占める貴重な栄養源となります。その流動物性は、食べやすさや誤嚥のリスクに直結するため、最適な流動食品を探求するために、客観的な数値として評価することが求められます。しかし、従来の計測手法はサンプルが均質であることを前提としており、ミリサイズの具材を含む、お粥のような流動食品を安定的に評価することは困難でした。

本研究で使用された流速分布計測支援型レオメトリ(VPAR)は、二重円筒間にサンプルを満たし、外円筒を回転させることで、サンプルに変形を与えます。その際、内円筒に働く負荷トルクを計測し、同時に超音波を用いて円筒間の速度分布を獲得します。これにより取得したデータを流体の運動方程式に代入して解析することで、流動物性を評価します。VPARを用いて、市販の白粥、玉子粥、小豆粥の計測が行われ、白粥の粘度が最も高く、次いで小豆粥、玉子粥は最も低い粘度を持つことが示されました。これらの結果は、実際にそれらのお粥を食べてみた感覚と整合的です。また、これらは何れも変形速度の増加に対して粘度が低下するシェアシニング性を示し、嚥下食として優れた性質を持つことが流体力学の観点からも明らかにされました。

研究グループはさらに、得られた流動物性データを流れの予測に活用することを試みました。摂食嚥下プロセスに関連して重要とされる、平板上での食塊の広がりと縮小部での流下速度を予測する簡易的な物理モデルが提案されました。広がり距離と流下速度の予測は、実験データとの比較により検証され、一連の物性評価から流動予測までの妥当性が示されました。今後、様々な流動食品の物性評価にVPARが活用されるだけでなく、得られた流動物性データは摂食嚥下の予測シミュレーションに応用され、嚥下食の安全性向上に貢献することが期待されます。

なお、本研究成果は、202523日(月)公開の米国物理学協会AIPが発行する雑誌Journal of RheologyFeatured Article(注目記事)として掲載されました。また、AIPが発行する全体の論文の中で最も注目度の高い研究成果のみを特集するScilightScience Highlight)にも選出されました。

論文名:Rheology of fluid foods containing millimeter-sized ingredients examined by velocity-profiling-assisted rheometry and prediction of spreading and descending behaviors(流速分布計測支援型レオメトリによるお粥のレオロジー物性評価と広がりと流下挙動の予測)
URL:https://doi.org/10.1122/8.0000919

詳細はこちら