2025年2月13日
ポイント
●妊娠前にX線に被ばくした雌マウスが生んだ仔マウスのミトコンドリアゲノム不安定性を発見。
●細胞質ゲノムに対する放射線の次世代影響に関する報告は世界初。
●放射線健康リスク推定の高精度化と放射線防護体系の堅牢化に貢献。
概要
北海道大学大学院保健科学研究院の福永久典准教授(同大学環境健康科学研究教育センター副センター長兼務)、清野良輔学術研究員、西久保開学術研究員、同大学医学部保健学科4年の久保春果氏らの研究グループは、妊娠前にX線に被ばくした雌マウスが生んだ仔マウスにおける、ミトコンドリアゲノム不安定性を発見しました。細胞質ゲノムであるミトコンドリアDNAの次世代影響に関する報告は世界で初めてであり、この分野におけるブレイクスルーといえます。
本研究では、ヒトのがん細胞及び非がん細胞において、X線照射後にミトコンドリアDNAコピー数が増加する一方で、正常なコピー比が低下すること、並びに雌マウスの末梢血由来のミトコンドリアDNAにおいても同様の傾向があることを示しました。さらに、妊娠前にX線に被ばくした雌マウスと正常な雄マウスの間に生まれた仔マウスの血液ミトコンドリアDNAコピー数が低下することを示しました。すなわち、ミトコンドリアゲノムの制御機構に与える放射線の遺伝性影響を世界で初めて明らかにしました。マウスとヒトの種の差異などを十分に考慮する必要がありますが、この結果は妊娠前の女性とその次世代に対する放射線防護の意義について新たな知見を提示し、放射線健康リスク評価の高精度化と放射線防護体系の堅牢化に貢献するものと考えられます。
なお、本研究成果は、2025年2月2日(日)公開のEnvironment International誌に掲載されました。
論文名:Radiation-induced impacts on mitochondrial DNA and the transgenerational genomic instability(ミトコンドリアDNAに対する放射線影響と継世代ゲノム不安定性)
URL:https://doi.org/10.1016/j.envint.2025.109315
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