2025年3月26日
ポイント
●特異な二本指のテリジノサウルス類「デュオニクス・ツクトバアタリ」の新種を命名。
●中型以上の獣脚類では世界で初めて三次元的に保存された角質の爪を確認し、その機能が明らかに。
●手が三本指である一般的な獣脚類恐竜の中で、恐竜の手指の減少が5回にわたって
概要
北海道大学総合博物館の小林快次教授(筆頭著者)率いる国際研究グループは、モンゴルのゴビ砂漠に位置する白亜紀後期(約9,500万〜8,960万年前)のバヤンシレ層から、テリジノサウルス類の新種「デュオニクス・ツクトバアタリ(Duonychus tsogtbaatari)」を発見しました。
この新種は、テリジノサウルス類としては初めて、二指性(Didactyly)の手を持つという特異な特徴を示しており、保存状態が極めて良好な角質の爪が確認されました。従来、テリジノサウルス類は三指性(Tridactyly)の手を持ち、植物を掴むために発達した大きな鉤爪が特徴とされていました。しかし、デュオニクスはティラノサウルスの様に手の第3指が消失し、二本指のみを持つ独自の形態を示しています。特に、保存された爪は、恐竜化石として非常に稀な三次元構造をほぼ完全な状態で保っており、これまで報告のなかった「中型以上の獣脚類での角質の爪鞘保存」の貴重な例となります。
テリジノサウルス類は、白亜紀にアジアと北アメリカに生息していた植物食性または雑食性の獣脚類恐竜で、通常は三本指と大型の鉤爪を持ち、枝を引っ掛けて口元に引き寄せる機能を持っていました。しかし、今回のデュオニクスの発見は、獣脚類における前肢や手の形態縮小に関する新たな知見をもたらし、二指性の進化が獣脚類内で、複数のクレードにおいて収斂進化として独立に現れたことを示しました。特に、デュオニクスの手の鉤爪は、左手の第1指を覆う立体的な角質構造を持っており、強く湾曲した爪と極端な屈曲性により、わずか二本の機能的な指だけでも高い把握能力を有していた可能性があります。この特異な形態は、デュオニクスが植物を掴んで引き寄せるといった動作に優れていたことを示唆しています。
今回の発見は、恐竜の進化や行動に関する新たな洞察をもたらし、特に二本指を持つ恐竜の進化メカニズムや、指の減少と特定の機能への適応に関する理解を深める重要な手がかりとなりました。
なお、本研究成果は、日本時間2025年3月26日(水)、iScience誌にオンライン公開されました。
論文名:Didactyl therizinosaur with a preserved keratinous claw from the Late Cretaceous of Mongolia(モンゴルの後期白亜紀後期から発見された、角質の爪が保存された二指のテリジノサウルス類)
URL:https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.112141
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