2025年3月5日
ポイント
●イジング計算で化学反応式から原子マッピング(化学反応のパターン)を抽出することに成功。
●イジング計算を用いた列挙アルゴリズムで、化学的にありうるパターンを高速に全列挙。
●化学反応データベースにおける正確・高速な検索や逆合成解析などへの応用に期待。
概要
北海道大学総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の秋山世治特任助教、長田裕也特任准教授、WPI-ICReDD及び同大学電子科学研究所の水野雄太助教、小松崎民樹教授らの研究グループは、与えられた化学反応式に対して反応物と生成物の原子の対応関係を求める原子マッピングと呼ばれる問題を、正確かつ高速に解く手法を開発しました。原子マッピング問題は化学反応のパターンを抽出することにもつながり、化学情報学における基本的問題です。しかし、原子マッピング問題を正確かつ高速に解くことは難しく、数学的に正確に解こうとすると組合せ爆発により計算量が急激に増大し、既知のデータから構築された反応ルールや機械学習モデルを利用した場合には正確さが低下することが知られています。本研究では、こうした反応ルールを用いず正確にかつ高速に原子マッピングを求めるため、イジング計算と呼ばれる組合せ最適化手法を利用することで、正確かつ高速な原子マッピング計算を実現できることを示しました。将来的には、イジングマシンや量子コンピュータといった次世代計算機の適用や、化学反応データベースにおける正確・高速な検索や逆合成解析などへの応用が期待されます。
なお、本研究成果は、2025年2月2日(日)公開のJournal of Chemical Information and Modeling誌に掲載されました。
論文名:Enumeration Approach to Atom-to-Atom Mapping Accelerated by Ising Computing(イジング計算で加速される原子間マッピングの列挙アプローチ)
URL:https://doi.org/10.1021/acs.jcim.4c01871
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イジング計算による原子マッピングのイメージ図。ボールが底へと転がる様子はイジング計算でエネルギーが最も低い解に収束していく過程を表し、そこから線で示す原子マッピングが求められる。底となる点は複数存在することがあり、全ての可能なマッピングを列挙して収集する必要がある。