2025年4月11日
ポイント
●「勝者」登上線維シナプスの構造的強化を初めて可視化。
●強化されたシナプスに特異的な分子発現を発見。
●神経回路が「選別」される仕組みの解明に寄与。
概要
北海道⼤学⼤学院医学院博⼠課程4年の新田麻子氏(研究当時)、同大学院医学研究院の山崎美和子准教授らの研究グループは、脳が発達過程で重要な神経接続を選び取り、不要なものを除去する「神経回路の精緻化」に着目し、小脳プルキンエ細胞―登上線維シナプスの構造的強化を明らかにしました。
出生直後のマウスでは、複数の登上線維が一つのプルキンエ細胞に接続していますが、生後7日頃から「勝者」となる1本が選ばれ、他の登上線維を退けて樹状突起へと移行し始めます。
本研究では、連続電子顕微鏡法を用いて「勝者」登上線維シナプスの微細構造を3次元的に可視化し、免疫組織化学により、分子の分布を解析しました。その結果、「勝者」登上線維は細胞体及び樹状突起の両方で、より広く複雑なシナプス構造を形成しており、AMPA型グルタミン酸受容体の発現が顕著に高いことが分かりました。さらに、神経伝達物質の放出に関与するRIMという分子は、「勝者」登上線維が形成する樹状突起シナプスに特異的に高発現していました。
これらの成果は、神経回路において「選ばれた接続」がいかにしてさらに強くなり、最終的に他の接続を上回るのか、その構造的・分子的基盤を示すものです。
本研究成果は、2025年4月10日(木)公開の The Journal of Neuroscience誌に掲載され、雑誌の表紙(cover article)として紹介されました。オンライン版は2025年2月27日(木)に先行公開されています。
論文名:Molecular and Anatomical Strengthening of "Winner" Climbing Fiber Synapses in Developing Mouse Purkinje Cells(発達期マウス小脳における登上線維―プルキンエ細胞シナプスの分子解剖学的強化)
URL:https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.2156-24.2025
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電子顕微鏡解析により得られた所見の模式図。
樹状突起に移行した「勝者」シナプスは強化されて残存し、移行できなかったシナプスは弱化され、最終的に除去される(「敗者」)。「勝者」登上線維はより大きく複雑なシナプス構造を形成し、受容体の発現も多かった。