2025年4月17日
ポイント
●脂質ナノ粒子に含まれる脂質の組成比を調整することで脾臓選択的なmRNA送達を達成。
●脾臓のB細胞への取り込みメカニズムとして補体-補体受容体経路の関与を解明。
●脾臓の免疫細胞を標的としたmRNAワクチン製剤の安全性と有効性を実証。
概要
北海道大学大学院薬学研究院の佐藤悠介准教授、原島秀吉教授、同大学大学院生命科学院博士課程の鈴木裕一氏らの研究グループは、脾臓の免疫細胞を標的とした脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle: LNP)を開発し、安全で有効なmRNAワクチン製剤として実証しました。
LNPはmRNAをはじめとした核酸分子の送達技術として汎用され、近年では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン製剤として臨床応用が進められています。しかしながら、製剤の安全性とワクチン効果の有効性を両立したワクチン製剤を実現するために、"mRNAをどこに送達すべきか"という問いは未だ明らかになっていません。
今回、研究グループはLNPを構成するリン脂質であるDSPC割合の増加に伴い、mRNA送達が肝臓から脾臓へ大幅にシフトすることを発見し、効率的に脾臓へmRNAを送達するLNP製剤を見出しました。また、このLNP製剤を全身投与した場合、補体に関連したタンパク質が吸着すると示唆され、補体受容体を介して脾臓のB細胞に取り込まれることが明らかとなりました。さらに、従来のCOVID-19ワクチンの模倣製剤と比べて、肝毒性が大きく低減するとともに、抗原特異的な免疫反応を強く誘導することも実証されました。
このことから、非標的である肝臓へのmRNA送達を回避し、脾臓の免疫細胞を標的とするLNP製剤設計は、安全で有効なmRNAワクチン製剤の実現のために有望な戦略であると言えます。
なお、本研究成果は、2025年4月11日(金)公開のJournal of Controlled Release誌に掲載されました。
論文名:Splenic B cell-Targeting Lipid Nanoparticles for Safe and Effective mRNA Vaccine Delivery(安全で有効なmRNAワクチンを指向した脾臓のB細胞を標的とする脂質ナノ粒子の開発)
URL:https://doi.org/10.1016/j.jconrel.2025.113687
詳細はこちら