2025年4月24日
ポイント
●プルキンエ細胞でカルシウム制御因子が局在的に分布していることを発見。
●小胞体カルシウムストアが機能的に区画化されている可能性を支持。
●シナプス可塑性や神経疾患の理解に寄与。
概要
北海道大学大学院医学院修士課程2年の野村左京氏(研究当時)と同大学院医学研究院の山崎美和子准教授らの研究グループは、小脳プルキンエ細胞において、カルシウム制御に関わる分子が、特定の領域の小胞体に集中して分布することを明らかにしました。
これまで、小胞体のカルシウムセンサーであるSTIM1の発現様式は明らかにされていませんでしたが、本研究では、特異的抗体の使用と固定条件の最適化により、STIM1が樹状突起幹の皮質下小胞体に偏在することを明らかにしました。さらに、STIM1の分布はIP3受容体(IP3R)とはよく一致する一方で、リアノジン受容体(RyR)とは重なりませんでした。この観察結果は、STIM1が特定のカルシウムストアに局在することを示唆しています。
さらに、カルシウムイメージングによりカルシウムの動きを可視化すると、STIM1をノックダウンした細胞ではIP3Rを介したカルシウム放出が大きく低下していましたが、RyR経路によるカルシウム放出への影響は限定的でした。これらの結果から、STIM1はIP3受容体感受性カルシウムストアの補充に、特に重要な役割を果たしていることが示されました。
本研究は、小胞体カルシウムストアが一様な構造ではなく、機能的に区画化されている可能性を支持するものであり、学習や記憶を支える神経細胞内の情報処理メカニズムに対する新たな理解につながることが期待されます。
なお、本研究成果は、2025年4月16日(水)公開のThe Journal of Neuroscience誌に掲載されました。
論文名:Preferential Localization of STIM1 to Dendritic Subsurface ER Structures in Mouse Purkinje Cells(小胞体カルシウムセンサーSTIM1はマウス小脳プルキンエ細胞の特定の小胞体構造に集積している)
URL:https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1829-24.2025
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(A)蛍光三重免疫染色により明らかになったマウス小脳プルキンエ細胞の内部のSTIM1の分布。矢印は樹状突起幹から伸びた棘突起を示している。
(B)カルシウムイメージングによるIP3受容体を介したカルシウム上昇の可視化。このカルシウム上昇はSTIM1のノックダウン(STIM1-KD)により消失する(C、右)。