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実データで見る統合失調症者の運転スタイル~偏見なき運転評価と支援の実現に向けて~(保健科学研究院 助教 岡田宏基)

2025年5月26日

ポイント

●統合失調症者は、他の運転者に比べ速度超過やスマートフォンの操作といった違反運転行動が少ない。
●認知機能障害や錐体外路症状が交通違反や実際の運転行動と関連することを解明。
●認知機能リハビリテーションを通じた安全運転支援の実装に期待。

概要

北海道大学大学院保健科学研究院の岡田宏基助教らの研究グループは、統合失調症を有する人々(以下、統合失調症者)の実際の運転行動をドライブレコーダーで記録・解析し、比較対象群(診断歴のない群)の運転者と比較した結果、統合失調症者には「スピードを控え、注意散漫な運転が少ない」といった安全志向の運転傾向があることを明らかにしました。本研究は、統合失調症者の実生活における運転行動を実データで検証した、世界初の研究の一つです。

本研究では、統合失調症者群と比較対象群の各20名を対象に、計500km分の運転データを収集しました。速度、交通違反、急ブレーキなどの危険運転行動を解析した結果、統合失調症者は平均速度・最大速度ともに有意に低く、スマートフォン操作などの注意散漫運転の頻度も非常に少ない傾向がみられました。

また、違反行動の要因を解析した結果、視覚的な注意力を測定する「有効視野(UFOV)」のスコアが低い人ほど、信号無視や一時停止違反などの"注意力に関連する違反"が多い傾向にあることが明らかになりました。さらに、「急ブレーキ行動」の背景には、抗精神病薬の副作用の一つである錐体外路症状が関与している可能性が高く、これにより運転時の運動制御が難しくなるケースがあることも判明しました。特に、信号での停車や交差点での進行・停止の判断の場面において、過剰なブレーキがみられる傾向がありました。

これらの知見は、統合失調症者の運転行動について「リスクが高い」とする一面的な認識に再考を促すとともに、運転支援システムの設計においては、認知機能や薬の副作用による運動障害といった個別の特性に配慮することが不可欠であることを示しています。

なお、本研究成果は、2025418日(金)付で国際学術誌 SchizophreniaNPJ Schizophrenia)にオンライン掲載されました。

論文名:Characteristics of real-world driving behavior in people with schizophrenia: a naturalistic study utilizing drive recorders(統合失調症者における実世界での運転行動の特徴:ドライブレコーダーを用いた自然派主義的研 究)
URL:https://doi.org/10.1038/s41537-025-00613-1

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「*」は有意差あり(p < 0.05)を示す。
PWS:統合失調症者、HC:比較対象群統合失調症者は、"平均速度"および"一回あたりの運転における最高速度"が比較対象群よりも遅く、"スピード違反"や"不注意運転"の頻度も有意に少ない傾向がみられた。