廣重 力元総長の訃報に接し、北海道大学を代表して謹んで哀悼の意を表します。
廣重先生とは、私が北海道大学医学部の学生の頃、医学部での生理学の授業で初めてお会いしました。廣重先生の講義は、大変に論理的で私は大変に魅了されました。それに加えて、先生は、ユーモアの精神をお持ちで、実に、楽しい授業を展開され、「教えること」が本当にお好きなのだなと感じていました。
私が総長を拝命してからは、お会いして直接お話を伺う機会はなかったのですが、総長室にある先生のご著書に触れることができ、先生の学識の深さに感銘を受けておりました。
廣重 力先生は、平成3年5月に北海道大学長に就任(平成4年7月から北海道大学総長に呼称変更)、4年にわたり在任し、同7年4月30日任期満了により退職、同年5月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。平成8年4月大学入試センター所長に就任し、同11年3月31日任期満了で退職された後、平成11年4月から7年間北海道医療大学長に在任され、平成17年3月から平成24年9月まで学校法人東日本学園理事長を務められました。
この間、永年にわたって生理学、特に神経内分泌学の教育・研究に邁進され、特にホルモン分泌や行動にみられる概日リズムの調節機序と中枢神経機構の解明に努められ、斯界の発展に大きく寄与されました。この間における英文論文(著書、原著、総説)は100編を優に超えています。
北海道大学医学部長時代には、医学部改革の方向づけを行い、また脳死移植問題とからんで脳死判定基準に新機軸を提案されました。北海道大学総長の4年間は、戦後最大の国立大学改革の前哨戦として、インターファカルティ研究科構想を提唱し、その後の大学改革の基本路線を敷かれました。
教育面では、学部一貫教育体制への移行の実施、教養部・学生部の廃止、これに代わる高等教育機能開発総合センターの新設、学務部の創設、副学長制度の採用など、現在の北海道大学の礎となる改革を行われました。
さらに北大キャンパス活用のグランドデザインを提示し、大幅なキャンパス整備、教員の意識改革を促進するために自己点検評価システムを全国に先駆けて導入されました。
学会活動としては、日本生理学会常任幹事、日本神経科学学会理事、日本生気象学会幹事など、斯界の第一人者として活躍されました。また、国際神経内分泌学会機関紙『Neuroendocrinology』の編集委員、日本生理学会英文機関紙『Jpn. J. Physiology』の編集委員長を務め、生理学の発展に貢献されました。
さらに、地域や社会貢献の面では、20件を超える各種団体の役員を務め、幅広く活躍されました。
以上のように、廣重先生は生理学の教育及び研究を通し、卓越した業績をあげられるとともに、北海道大学総長、大学入試センター所長、さらには北海道医療大学長並びに学校法人東日本学園理事長などの要職を歴任し、大学の管理・運営に腐心されるとともに、幅広い社会活動を通じて地域社会の発展に貢献されました。
先生を失ったことは、誠に残念であり哀惜の念に堪えません。ここに改めて、廣重先生の本学へのご貢献に深く感謝いたします。
令和7年5月23日
北海道大学第20代総長 寳金清博