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本学名誉教授(元 触媒化学研究センター長)福岡 淳 氏が紫綬褒章を受章

福岡 淳名誉教授・触媒科学研究所特任教授(研究開発部門)が令和7年春の紫綬褒章を受章されました。福岡先生は、「化学工業の脱炭素化」および「フードロス削減」というSDGsの主要課題の解決に資する固体触媒反応プロセスを開発し、民間企業との産学共同研究を通してそれら開発した技術の社会実装を実現しました。開発した技術は世界的にも先駆的な研究成果として認められており、国内外における様々な受賞歴がそれを実証しています。以下には、福岡先生が貢献した主要な成果の概要を示します。 

  1. 木質バイオマスの主成分であるセルロースを解重合すれば基幹化学品の原料へ誘導できますが、セルロースは強固な結晶構造をもち解重合が困難です。さらに、生成するグルコースが副反応を起こしやすいという問題があります。福岡先生はセルロース解重合に固体触媒を用いることを着想し、担持金属触媒によるセルロースの加水分解水素化によりソルビトールが得られることを見出しました。これは固体触媒による初のセルロース解重合となりました。
  2. 福岡先生はセルロースの加水分解に取り組み、カルボキシ基などの弱酸点をもつ炭素触媒を用い、触媒とセルロースを混合ミル処理する新たな方法論を構築しました。本手法では、グルコースの高速合成を達成するとともに、水溶性セロオリゴ糖を良好な収率で合成することに成功しました。水溶性セロオリゴ糖は付加価値が高く、植物に対してバイオスティミュラントとして機能します。
  3. 福岡先生は、セルロース解重合法を発展させたメカノキャタリシスにより海洋バイオマスであるキチンを効率よく解重合し、キチンオリゴ糖およびモノマーであるN-アセチルグルコサミン(NAG)を合成する固体触媒プロセスを構築しました。キチンオリゴ糖はセロオリゴ糖と同様に高い付加価値をもち、植物に対してバイオスティミュラントとして機能します。
  4. キチンの解重合によって得られたNAGの変換反応を検討し、NAGを還元して糖アルコール(ADS)を得るととともに、その糖アルコールの脱水により二環縮合アミドアルコール(ADI)を新規に合成しました。固体触媒によるキチンの解重合を起点として各種の有機窒素化合物を合成する新たな化学反応プロセスの開拓は、化学工業における資源循環サイクルのなかに窒素を加える契機となることが期待されています。
  5. 福岡先生は、白金ナノ粒子と多孔質シリカを組み合わせた触媒による酸化反応を検討し、エチレンが0 ℃の低温でも二酸化炭素と水に酸化されることを見出しました。この低温酸化は、白金とシリカの組み合わせのときに起こり、白金隣接サイトが活性点となること、シリカ上のシロキサンなどの疎水性場が水を効果的に除去して定常活性を保つことなど新たな反応機構を提案しました。
  6. シリカ担持白金触媒(プラチナ触媒)を青果物の鮮度保持に応用し、収穫後の野菜・果物から放出される微量のエチレンを酸化除去して、熟成を抑制できることを実証しました。プラチナ触媒は冷蔵庫の野菜室や野菜貯蔵庫で実際に使われており、野菜の歩留まり向上・フードロス削減に大きく貢献しています。冷蔵庫や野菜の大型貯蔵庫に設置したプラチナ触媒は長期にわたり鮮度保持効果や歩留まり向上を示し続けています。

福岡先生は、このような研究業績により、平成27年触媒学会賞、平成27年GSC賞文部科学大臣賞、令和2年井上春成賞、令和4年石油学会賞、令和5年日本化学会賞、令和6年文部科学大臣表彰科学技術賞など、多数の賞を授与されています。この度の受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍を祈念いたします。

触媒科学研究所

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