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なぜ窒素ドープカーボン触媒は酸性条件で活性を失うのか?~酸素還元反応の劣化メカニズムを活性点レベルで解明~(触媒科学研究所 准教授 武安光太郎)

2025年6月9日

北海道大学
九州大学
筑波大学

ポイント

●酸性条件下の活性低下がピリジン型窒素のpKaに起因することを実験・理論で解明。
●モデル触媒を用いてピリジン型窒素のプロトン化と酸素吸着反応のpH・電位依存を評価。
●ピリジン型窒素のpKa制御により、酸性条件下でも高活性を維持する設計指針を提示。

概要

北海道大学触媒科学研究所の武安光太郎准教授、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(WPI-I²CNER)の中村潤児特任教授、筑波大学大学院理工情報生命学術院数理物質科学研究群博士後期課程の林田健志氏らの研究グループは、燃料電池用の酸素還元反応触媒として注目されている窒素ドープカーボン触媒が、酸性条件下で著しく活性が低下する原因を、活性点レベルで明らかにしました。

近年、白金に代わる低コストかつ高耐久な電極触媒として、金属を含まない窒素ドープカーボン触媒への関心が高まっています。しかし、酸性条件下ではその触媒活性が大きく低下するという課題があり、そのメカニズムは解明されていませんでした。本研究では、モデル触媒を用いて、窒素ドープカーボン触媒の活性点であるピリジン型窒素(pyri-N)の化学状態と反応挙動を、酸性とアルカリ性の両条件で反応させた後、X線光電子分光法(XPS)などにより詳細に解析しました。その結果、触媒活性のpH依存性は、pyri-N"塩基性"の強さ(pKa)に深く関係していることが明らかになりました。アルカリ性の環境では、pyri-Nが水と直接反応して水素を受け取り、その後すぐに酸素分子が吸着することで反応が進みます。一方、酸性の環境では、まずpyri-N"プロトン(H⁺)"を受け取って安定化されるため、そこから酸素が吸着するには、余分なエネルギー(=電位の低下)が必要になります。この差が、酸性条件下で触媒の働きが弱くなる原因であることが分かりました。また、pyri-Nが水素を取り込んで酸素分子との反応を助けた後、水素を手放すという一連の変化が確認されました。これにより、pyri-N自身が反応中に電子やプロトンのやりとりを担う「能動的な触媒部位」であることが明確になりました。これらの成果により、今後はpyri-NpKaを制御することで、酸性条件下でも高性能を維持できる新たなカーボン系触媒の開発が期待されます。

なお、本研究成果は、202552日(金)公開のAngewandte chemie International Edition誌に掲載されました。

論文名:Why Does the Performance of Nitrogen-Doped Carbon Electrocatalysts Decrease in Acidic Conditions?(なぜ窒素ドープカーボン電極触媒は酸性条件下で性能が低下するのか?)
URL:https://doi.org/10.1002/anie.202502702

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窒素ドープカーボン触媒の活性点であるピリジン型窒素の反応素過程におけるエネルギーダイアグラム。