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光の「回転」が物質を動かす仕組みを解明~光のスピンと軌道の「回転力」を分けて測れる新理論を構築~(電子科学研究所 教授 田中嘉人)

2025年6月5日

ポイント

●光が持つ2種の回転(スピンと軌道)を、物質中で分けて定量評価できる理論を初めて提案。
●電場・磁場の「時間変化」に基づき、物質中でも成り立つ2種の角運動量の保存則をそれぞれ導出。
●光の回転力(トルク)を活用した物質操作や、ナノ構造体・キラル分子の光応答の解明に貢献。

概要

北海道大学電子科学研究所の橋谷田俊助教、田中嘉人教授の研究グループは、光が物質に与える「回転の力(光トルク)」の源である「角運動量」を、「スピン(偏光による自転的な回転)」と「軌道(波面のねじれによる公転的な回転)」の二つに分け、それぞれの損失量を個別に測定・解析できる新たな理論を提案しました。

光には、まっすぐ進むだけでなく、回転という重要な性質があり、これが物質に働きかけることで回転の力(光トルク)が生まれます。その源は角運動量という物理量です。角運動量は、空間全体で保存される(失われることのない)量であり、たとえ光が物質と相互作用して角運動量を失ったとしても、その分は物質に移り、光トルクとして作用します。これを記述するのが「光の角運動量の保存則」です。

これまでの理論では、スピン角運動量や軌道角運動量は光の横波(進行方向と垂直な成分)のみで記述されており、物質が存在すると現れる縦波(進行方向に沿った成分)を扱うことができませんでした。そのため、物質中でのそれらの保存則を正しく記述することが困難でした。

今回の研究では、電場と磁場の「時間変化」に基づいて光の角運動量を定義し直し、それをスピンと軌道に分離することで、物質がある場合でも成り立つ保存則を初めて導出しました。これにより、光が物質にどのように回転の力を与えているのかを、スピンと軌道それぞれの視点から正確に理解できるようになりました。

この成果は、スピンと軌道が相互に変換される「スピン軌道変換」の定量的な解析を可能にするほか、キラル材料やナノ構造体への応用、さらには光を用いた微細操作技術の基盤となることが期待されます。

なお、本研究成果は、202564日(水)にPhysical Review Research誌に掲載されました。

論文名:Conservation law for angular momentum based on optical field derivatives: Analysis of optical spin-orbit conversion(電磁場の時間微分に基づく角運動量の保存則:光のスピン-軌道変換の解析)
URL:https://doi.org/10.1103/PhysRevResearch.7.L022052

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光のスピン角運動量と軌道角運動量が物質によって失われ、それによって物質が回転する様子