2025年6月12日
ポイント
●新属新種「カンクウルウ」の研究による大型ティラノサウルス類の進化過程の解明。
●アジアと北アメリカをまたぐ大陸間移動と進化のシナリオを再構築。
●"成長の時間差"が、異なる体型や生態的地位を生んだ進化の駆動力であることを提唱。
概要
北海道大学総合博物館の小林快次教授、カルガリー大学のダーラ・ザレトニツキー教授らの国際共同研究グループは、モンゴルの白亜紀後期の地層(約9,000万年前)から発見された新種のティラノサウルス類カンクウルウ・モンゴリエンシス(Khankhuuluu mongoliensis)を報告し、この発見をもとに、北米とアジアにおける大型ティラノサウルス類であるエウティラノサウルス類(ティラノサウルス・レックスTyrannosaurus rexやタルボサウルス・バタール Tarbosaurus bataarなどの恐竜)の起源と進化に関する新たな仮説を提案しました。本研究では、モンゴル南東部のバヤンシレ層から産出した2個体の骨格化石に基づき、形態比較と系統解析を実施しました。その結果、カンクウルウは大型ティラノサウルス類の直前に分岐した中間的な形態を示しており、頭骨の形状や骨格の構造などから、大型ティラノサウルス類の進化の過程で異時性(ヘテロクロニー)が重要な役割を果たしていたことが分かりました。特に、アリオラムス亜科(Alioramini)は、従来初期系統と考えられてきましたが、本研究の結果からは、むしろ派生的な系統であり、大型ティラノサウルス類の幼体的形質を保持した「幼形成熟(パエドモルフォーシス)」による進化の可能性が示唆されました。
一方で、大型ティラノサウルス類の中でもティラノサウルスに代表されるティラノサウルス亜科(Tyrannosaurini)は「過成熟化(ペラモルフォーシス)」によって著しい大型化を遂げたと考えられます。さらに、本研究は、アジアで進化した中間型ティラノサウルス類が北アメリカに分散し、そこで大型ティラノサウルス類が起源・多様化し、再びアジアに逆流入したという分散経路を、統計的な祖先状態復元と地理解析により明らかにしました。これにより、ティラノサウルス類の進化史におけるアジアと北アメリカ間の交流と形態多様化のメカニズムが再構築され、大型ティラノサウルス類の進化に関する理解が大きく進展しました。
なお、本研究成果は、2025年6月12日(木)、Nature誌にオンライン公開されました。
論文名:A new Mongolian tyrannosauroid and the evolution of Eutyrannosauria(モンゴルの新しいティラノサウルス類とエウティラノサウルス類の進化)
URL:https://doi.org/10.1038/s41586-025-08964-6
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本研究の概略図:カンクウルウ(中央)とその他のユウティラノサウルス類(左、アリオラムス;上、ティラノサウルス;右、ゴルゴサウルス)