2025年6月11日
ポイント
●サルを用いた神経生理学実験で、「記憶の消去」を担う神経細胞を同定。
●短期記憶における情報更新のメカニズムを細胞レベルで初めて解明。
●精神疾患や神経疾患に伴う前頭葉機能障害の理解と治療法開発に寄与。
概要
北海道大学大学院医学研究院の澤頭 亮助教と田中真樹教授(脳科学研究教育センター兼任)らの研究グループは、前頭葉機能検査で広く用いられているN-back課題を改変してサルに訓練し、脳活動を解析することで短期記憶の操作に関わる神経メカニズムの一端を明らかにしました。
本研究では、画面上に次々と現れる視覚刺激の位置を一時的に記憶する課題をサルに行わせ、前頭連合野の神経活動を記録しました。その結果、ある特定の位置に刺激が出たことを記憶している間に活動する神経細胞(記憶ニューロン)とは別に、「その記憶が不要になる」タイミングで活動する新たなタイプのニューロン(消去ニューロン)を発見しました。課題中に微弱な電気刺激を与えると記憶の一部が消えることも確かめられ、これらの神経細胞は、短期記憶の消去や柔軟な切り替えを支える重要な役割を担っていると考えられます。
本成果は、統合失調症や強迫神経症など、記憶の更新に異常を伴う精神疾患のメカニズム解明に寄与することが期待され、将来的な治療法開発の手がかりとなる可能性があります。
なお、本研究成果は、2025年6月9日(月)公開のCommunications Biology(Springer Nature)にオンライン掲載されました。
論文名:Neural correlates of memory updating in the primate prefrontal cortex(霊長類前頭連合野における記憶更新の神経相関)
URL:https://doi.org/10.1038/s42003-025-08271-w
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前頭連合野の一部の神経細胞(ニューロン)が、特定の記憶を消去する際に活動することを発見しました。また、これらの神経活動を操作することで、記憶の一部を消すことに成功しました。記憶を更新することに困難を来す多くの精神疾患の病態解明につながります。