2025年6月12日
ポイント
●左室補助人工心臓装着後の重症心不全患者に運動負荷右心カテーテル、心臓超音波検査を同時に実施。
●大動脈弁開放と最も関連していたのは、内因性の左室機能ではなく、右室予備能であることが判明。
●右室予備能をターゲットにした治療介入により、左室補助人工心臓装着後患者の予後改善を期待。
概要
北海道大学病院循環器内科の竹中 秀助教、同大学大学院医学研究院循環器内科学教室の佐藤琢真客員研究員、永井利幸准教授、安斉俊久教授らの研究グループは、左室補助人工心臓(LVAD: left ventricular assist device)装着後の重症心不全患者の詳細な血行動態評価を運動負荷右心カテーテル検査により行い、LVAD装着後患者の大動脈弁開放において、従来考えられていた内因性の左室機能よりも右室予備能がより重要であり、治療標的となる可能性があることを明らかにしました。
心不全に対しては、標準薬物治療や心臓再同期療法などの非薬物治療が一般的に行われますが、最大限の内科治療で心不全が克服できない患者には、LVAD及び心臓移植が適応になります。LVAD装着後心臓移植までは長期間の待機期間を要し、LVAD装着後患者の合併症予防には、大動脈弁の開放を長期間維持する管理が重要ですが、弁開放に関連する因子は主に治療介入が困難な内因性の左室機能が関与すると考えられており、それ以外の因子に関しては明らかにされていませんでした。
本研究では、2020年6月から2024年10月の間に北海道大学病院に定期カテーテル検査を目的に入院したLVAD装着後患者25名を対象として、運動負荷時に右心カテーテル検査、心エコー検査を同時に実施しました。運動中の右室予備能、大動脈弁の状態を評価し、①安静時及び運動時の大動脈弁開放群、②運動時のみの大動脈弁開放群、③安静時及び運動時の大動脈弁閉鎖群の3群に分け、検討を行いました。
その結果、安静時及び運動時の大動脈弁閉鎖群における右室予備能指標は、安静時及び運動時の大動脈弁開放群と運動時のみの大動脈弁開放群よりも有意に低下していました。多変量ロジスティック回帰分析では、右室予備能指標は大動脈弁開放と独立かつ有意に関連していました。これは、運動負荷検査により初めて明らかになったことです。
これらの結果から、LVAD装着後重症心不全患者において、大動脈弁開放と右室予備能は密接に関連していることが明らかになりました。今後は右室予備能が低下し、大動脈弁開放が認められないと判断できる患者に対し、肺血管拡張薬など右室仕事量を減少させる個別化介入を早期に行い、大動脈弁開放を維持することにより、合併症の減少、さらには生命予後改善に寄与できる可能性が示唆されました。
なお、本研究成果は、2025年5月31日(土)公開のThe Journal of Heart and Lung Transplantation誌にオンライン掲載されました。
論文名:Impact of Right Ventricular Reserve Function During Exercise on Aortic Valve Opening in Patients with Left Ventricular Assist Device(左室補助人工心臓装着後患者における大動脈弁開放と右室予備能との関連の検討)
URL:https://doi.org/10.1016/j.healun.2025.05.009
詳細はこちら