2025年6月19日
ポイント
●表面のタンパク質の種類や量を精密に制御したエクソソーム模倣脂質ナノ粒子の開発に成功。
●特定のインテグリンがRNA送達効率を向上させることを解明。
●エクソソーム機能解明やナノ医薬品開発への貢献に期待。
概要
北海道大学大学院工学研究院の真栄城正寿准教授、渡慶次学教授らの研究グループは、独自に開発したマイクロ流体デバイスを用いることで、細胞間の情報伝達を担っている細胞外小胞であるエクソソームを模倣した脂質ナノ粒子の作製に成功しました。エクソソームは、内部に核酸(miRNAやmRNAなど)やタンパク質を搭載しており、がんの新たなバイオマーカーや薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)としての応用が期待されています。しかし、細胞から分泌される天然のエクソソームは、粒径やエクソソーム表面に存在しているタンパク質の種類や量が不均一であり、エクソソームの機能解明やDDSへの応用の妨げになっていました。
研究グループは、マイクロ流体デバイスを用いることで、エクソソーム表面に存在するタンパク質(CD9、CD63、CD81やインテグリンなど)を、脂質ナノ粒子の表面に自在かつ均一に提示させたエクソソーム模倣ナノ粒子の作製に成功しました。この「エクソソーム模倣ナノ粒子」には、遺伝子治療などに用いられるsiRNAやmRNAなどの核酸も効率的に搭載できます。
さらに、研究グループは、エクソソーム模倣ナノ粒子を用いて、表面に提示されたタンパク質がRNAの送達能力にどのような影響を与えるかを検証しました。その結果、培養細胞を用いた実験では、インテグリンを提示したナノ粒子がRNA送達能力を高めること、マウスを用いた動物実験では、インテグリン(ITGαVβ5)を提示したナノ粒子が肝臓へのRNA送達効率を顕著に向上させることを見出しました。本研究で開発されたエクソソーム模倣ナノ粒子は、これまで複雑で解析が難しかったエクソソームのタンパク質の機能を解明するための強力なツールとなります。将来的には、特定の細胞や組織に効率よく薬物を届ける次世代DDS技術の開発や、エクソソームを利用した診断技術における標準粒子としての応用など、医療・生命科学分野への幅広い貢献が期待されます。
なお、本研究成果は2025年6月16日(月)公開の「ACS Applied Materials & Interfaces」誌にオンライン掲載されました。
論文名:Microfluidic Production of Exosome-Mimicking Lipid Nanoparticles for Enhanced RNA Delivery: Role of Exosomal Proteins(マイクロ流体デバイスを用いたエクソソーム模倣脂質ナノ粒子の作製:エクソソームタンパク質の役割の解明)
URL:https://doi.org/10.1021/acsami.5c06927
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