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洞窟に暮らす「目がないゴミムシ」から探る遺伝子の退化~洞窟進出の起源が異なる2種でも、同じ遺伝子が消失している~(地球環境科学研究院 教授 越川滋行)

2025年7月7日

ポイント

●洞窟に生息しているチビゴミムシ類(甲虫類)には、複眼が完全に消失している種がいる。
●独立して洞窟進出した2種を比較したところ、視覚に関わる遺伝子の退化の傾向が似ていた。
●不要となった遺伝子の退化の仕方にはある程度の法則性があると考えられる。

概要

北海道大学大学院環境科学院博士後期課程の丹伊田拓磨氏(研究当時。現在は京都大学大学院農学研究科特定研究員)と同大学大学院地球環境科学研究院の越川滋行教授、近畿大学生物理工学部の芦田 久教授の研究グループは、日本の洞窟に生息するチビゴミムシ2種と、それらに近縁な地表性の種を対象にゲノム情報を取得し、視覚に関わる遺伝子について比較解析を行いました。対象にした洞窟性のチビゴミムシ2種は、進化的に別々に洞窟へ進出したと考えられますが、視覚に関わる遺伝子24個のうち、両種で共通して消失していた遺伝子は9個あり、共通して保持されていた遺伝子は12個ありました。このことから、視覚に関わる遺伝子の消失と保持という進化運命は、洞窟性のチビゴミムシ2種で、高い一致性を持つことが示唆されました。さらに研究グループは、共通して消失している遺伝子にどのような特徴があるのか調べるために、実験モデル生物であるキイロショウジョウバエの遺伝子発現データを参照し、一つの遺伝子がいくつの組織で働くのかという遺伝子の多機能性に注目した解析を実施しました。その結果、共通して消失している遺伝子は、多機能性の指標が低い傾向にあることが示されました。これらの結果は、洞窟環境で不要になると考えられる視覚に関わる遺伝子であっても、全て退化したりランダムに退化したりするわけではなく、特定の決まった遺伝子が退化していることを示唆しています。退化する遺伝子には、環境変化以前の遺伝子の多機能性という性質が関与している可能性があり、この指標を用いることで遺伝子の退化はある程度予測可能になるかもしれません。

なお、本研究成果は、202573日(木)公開のJournal of Evolutionary Biology誌にオンライン掲載されました。

論文名:Trends in loss and retention of vision-related genes are similar between two trechine beetles independently colonizing caves(独立に洞窟に進出した2種のチビゴミムシ類において、視覚に関連する遺伝子の消失と保持の傾向は類似している)
URL:https://doi.org/10.1093/jeb/voaf071

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洞窟に生息するチビゴミムシ類の1種生息環境である洞窟内部と、サンプルを背面から撮影した時の写真