2025年7月16日
ポイント
●イネ変異体で観察される葉の捻れの3次元構造を、マイクロCTスキャンを用いて解析。
●葉の非対称性によって生じる葉身と葉鞘の物理的な接触が捻れを生み出すことを明らかに。
●「器官同士の物理的な接触により規定される植物の形のルール」の理解が深まることに期待。
概要
北海道大学大学院農学院博士後期課程の曵地 究氏、岡田脩平氏と同大学大学院農学研究院の小出陽平准教授らの研究グループは、マイクロCTスキャンによる3次元構造を定量化し、イネ(Oryza sativa L.)の捻れ葉変異体において、葉に不規則なパターンの捻れが形成されるメカニズムを明らかにしました。
植物は、根や葉をはじめとする複数の器官からなり、それらの器官は無数の細胞からできています。これら無数の細胞の伸長・分裂を制御することによって、器官の形が決定されることが知られています。細胞は常に同じ速度で成長するわけではなく、生育段階に応じて成長の速度や方向が細かく制御されています。そのため、異なる成長を示す細胞が隣接する場合も多く、これらの細胞はお互いの成長を物理的に制約し合う関係にあります。この細胞の制約し合う関係によって、植物器官はより複雑な形に変化することが知られています。一方で、器官同士の物理的な接触によって生じる制約が、どのようにして植物の器官形成に影響しているかはほとんど知られていませんでした。
本研究では、イネの葉において不規則な捻れを示す変異体"DSK115"に注目し、捻れが生じる器官形成メカニズムを解析しました。マイクロCTスキャンによる3次元的な解析をもとに、数理モデルシミュレーションによって捻れを再現した3Dモデルを構築することで、DSK115の葉に生じる構造的な左右非対称性が、成長中の葉身と、その周囲を取り囲む葉鞘との物理的な接触を引き起こし、葉の捻れを生み出すというメカニズムを明らかにしました。本研究は、イネ捻れ葉変異体において捻れが形成されるメカニズムの解明のみならず、植物の器官同士の物理的な接触が、器官の形成にどのように影響するかを理解する上でも重要な研究です。
なお、本研究成果は、2025年7月15日(火)公開のNew Phytologist誌にオンライン掲載されました。
論文名:Left-right asymmetry causes twisting in rice(Oryza sativa)leaves
via physical interaction between organs(イネ(Oryza sativa)の葉における左右非対称性は器官の間の物理的相互作用を通
じて葉身の捻じれを引き起こす)
URL:https://doi.org/10.1111/nph.70322
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イネ捻れ葉変異体で観察された不規則なパターンの葉身の捻れ。本研究では、この捻れが、異なる器官同士の物理的な接触によって生じることを明らかにした(紫:葉身、緑:中肋)。