2025年7月24日
北海道大学
札幌医科大学
東京大学医科学研究所
ポイント
●皮膚エリテマトーデスの表皮細胞が細胞老化を起こし、病態を形成することが明らかになった。
●老化細胞は分泌因子を介して、正常な表皮細胞に対する細胞傷害性T細胞からの攻撃性を高める。
●老化細胞は細胞傷害性T細胞の攻撃から逃れるメカニズムを持つ可能性がある。
概要
北海道大学大学院保健科学院博士課程2年の山本瀬菜氏、同大学大学院保健科学研究院の千見寺貴子教授、札幌医科大学保健医療学部の齋藤悠城教授、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターゲノム医科学分野の新井田厚司講師らの研究グループは、皮膚エリテマトーデスにおいて表皮細胞で起こる細胞老化が病態に関与する可能性を新たに見出しました。
皮膚エリテマトーデスは皮膚に慢性かつ炎症性の病変が生じる原因不明の自己免疫疾患で、全身性エリテマトーデス(SLE)症状の一つとして発症することがあります。病態として、I型インターフェロン(IFN)と呼ばれるサイトカインの発現が上昇していること、さらに正常な表皮細胞が細胞傷害性T細胞から攻撃され、細胞死を起こすことが分かっています。しかし、なぜ免疫細胞が正常な表皮細胞を攻撃するのか、その病態メカニズムは明らかにされていません。
研究グループは、皮膚エリテマトーデス患者の皮膚の単一細胞解析(シングルセルRNA-seq解析)を行いました。その結果、表皮細胞が細胞老化を起こし、I型IFNの発現を高めていることを明らかにしました。さらに、老化細胞から産生されるI型IFNが正常表皮細胞に作用することでHLA-クラス Iの発現を高めて、細胞傷害性T細胞から攻撃され易くなることが分かりました。一方で、老化細胞は自身が分泌する因子の作用によってHLA-クラス Iの発現を低下させることで、細胞傷害性T細胞の攻撃から逃れている可能性を示しました。
本研究成果は、老化細胞が皮膚エリテマトーデスにおいて正常な表皮細胞が攻撃を受けるメカニズムに関与する可能性を新たに明らかにしました。
なお、本研究成果は、2025年5月19日(月)公開のArthritis & Rheumatology誌にオンライン掲載されました。
論文名:HLA class I-downregulated senescent epidermal basal cells orchestrate skin pathology in cutaneous lupus erythematosus(HLA-クラス Iの発現を低下させた老化表皮基底細胞が皮膚エリテマトーデス病変を形成する)
URL:https://doi.org/10.1002/art.43244
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