2025年7月29日
ポイント
●血管内皮細胞におけるACE2非依存的なウイルス取り込みとCOVID-19重症化への関与を研究。
●細胞老化した血管内皮細胞はウイルス取り込み能力が高く、炎症応答が強く誘導されることを解明。
●老化血管内皮細胞を標的とした新型コロナウイルス感染症の重症化予防法や治療法開発に期待。
概要
北海道大学大学院歯学研究院の樋田京子教授、間石奈湖助教(研究当時)、同大学大学院歯学院博士課程(研究当時)の桜井優弥氏、同大学大学院医学研究院の大場雄介教授、藤岡容一朗准教授、同大学ワクチン研究開発拠点の澤 洋文教授、同大学人獣共通感染症国際共同研究所の大場靖子教授、佐々木道仁准教授、藤田医科大学の樋田泰浩教授らの研究グループは、血管内皮細胞の中でも特に"細胞老化した血管内皮細胞"が主要なウイルス侵入受容体であるACE2を持たないにもかかわらず、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を取り込む能力が高く、取り込んだウイルス量に応じた炎症応答が誘導されることを発見しました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は加齢が最大の重症化リスク因子で、若年者と比較して高齢者は重症化しやすいことが知られています。重症化して死亡した患者の肺では、肺炎に加えて微小血栓・血管透過性異常亢進など血管内皮機能障害が特徴的です。研究グループは以前の研究で、重症化する加齢マウスの肺血管内皮細胞は、若齢マウスと比較して炎症応答が強く誘導されていることを報告しました。しかし、その違いがどのように生じたのか詳細は明らかになっていませんでした。
今回、研究グループは若い継代数の血管内皮細胞と細胞老化した血管内皮細胞を用いてSARS-CoV-2への反応性を比較解析しました。細胞老化した血管内皮細胞は主要なウイルス侵入受容体ACE2を発現していないにもかかわらず、ウイルスの細胞内への取り込みが亢進しており、取り込みウイルス量に応じて炎症応答が強くなることが分かりました。その機序として老化血管内皮細胞で発現亢進するタンパク質BSGが血管内皮増殖因子VEGFを介したエンドサイトーシス調節能を亢進していることが分かりました。本研究結果により高齢者におけるCOVID-19重症化の機序の一つとして、加齢に伴う肺血管内皮細胞の細胞老化によるウイルス取り込み増加と炎症応答が示されました。
なお、本研究結果は2025年7月28日(月)公開のProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌にオンライン掲載されました。
論文名:SARS-CoV-2 uptake and inflammatory response in senescent endothelial cells are regulated by BSG/VEGFR2 pathway(BSG/VEGFR2経路によって制御される老化血管内皮細胞によるSARS-CoV-2取り込みと炎症応答)
URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2502724122
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