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ウイルスは細胞同士の「会話」を乗っ取り感染を広げる〜インフルエンザの新たな感染メカニズムを発見、治療薬開発に期待〜(医学研究院 准教授 藤岡容一朗 教授 大場雄介)

2025年8月6日

北海道大学
大阪大学
九州大学

ポイント

●最初にウイルス感染した細胞からのメッセージを周囲の非感染細胞が受け取ることを発見。
●メッセージを受け取った非感染細胞は感染しやすくなり周囲へのウイルス感染を加速。
●メッセージのやり取りを標的とした新しい概念の創薬・治療に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の藤岡容一朗准教授、小澤史弥氏、大場雄介教授、大阪大学産業科学研究所(兼 大阪大学先導的学際研究機構)の永井健治教授、九州大学大学院医学研究院の田村友和准教授と福原崇介教授らの研究グループは、インフルエンザウイルスが体の中で感染を広げていく際に、細胞同士の"会話"を乗っ取ることを突き止めました。この発見により、ウイルス感染を抑える新たな治療法の開発が期待されます。

ウイルス感染は、ごく一部の細胞から始まり、徐々に周囲の細胞へと広がっていきます。しかし、感染がどのように周囲の細胞に広がっていくのか、その詳細なメカニズムはよく分かっていませんでした。

研究グループはこれまでに、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇すると、インフルエンザウイルスが感染しやすくなることを突き止めています。今回の研究では、ウイルスに感染した細胞が「ADP(アデノシン二リン酸)」を細胞外に放出し、それを周囲の細胞が受け取ると細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することを、超広視野高解像顕微鏡AMATERAS等を用いた解析により発見しました。この現象は"カルシウム波伝播"と呼ばれ、まるで伝言ゲームのように次々と隣接する細胞へと連鎖的に広がっていきます。今回の研究で、この"カルシウム波伝播"の仕組みをウイルスが乗っ取り、感染を加速させていることが分かりました。さらに研究グループは、「ADP受容体」をブロックすることで、この波の伝播を止め、感染が抑えられることも示しました。

本研究成果は、ウイルスがどのように体の中で広がるのかという謎を解くだけでなく、将来的には「細胞同士の会話」を標的とした、新しいウイルス治療薬の開発にも繋がる可能性があります。

なお、本研究成果は、日本時間202582日(土)公開のCell Communication and Signaling誌にオンライン掲載されました。

論文名:The crucial role of intercellular calcium wave propagation triggered by influenza A virus in promoting infection(細胞間カルシウム波伝播によりインフルエンザウイルス感染が促進される)
URL:https://doi.org/10.1186/s12964-025-02357-y

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最初に感染した細胞を起点に周囲の細胞にメッセージ(ADP)が送られ、細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度が上昇する。それに伴い、周囲の細胞で感染が活発に起こる。