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食品の「飲み込みやすさ」を数値化~嚥下食の安全性評価に新手法~(工学研究院 准教授 高橋航圭)

2025年8月8日

ポイント

●嚥下食の「飲み込みやすさ」を粘着試験により工学的に評価する新手法を開発。
●ホタテムースと全粥を用い、咽頭粘膜への付着・はく離挙動を数値化。
●高齢者や嚥下障害患者の誤嚥リスク低減や食事の最適化に貢献。

概要

北海道大学大学院工学研究院の高橋航圭准教授、北海道大学病院栄養管理部の熊谷聡美栄養士長らの研究グループは、嚥下食の「飲み込みやすさ」を、工業用粘着テープの試験手法を応用して評価する新しい方法を開発しました。この研究により、従来の粘度測定では評価が難しかった固形や半固形の食品について、咽頭粘膜への付着・はく離を数値化することで、より実態に近い「飲み込みやすさ」の評価が可能となります。

高齢化が進む日本では、嚥下障害を抱える患者数は増加の一途を辿っています。嚥下障害は誤嚥性肺炎などの重大な健康リスクと密接に関係し、食べやすく安全な嚥下食の開発が急務です。これまでに、粘度測定や経験に基づく評価手法が提案されてきましたが、特におかゆやムース状食品などの半固形食では適切な定量評価が困難でした。

本研究では、食品と咽頭粘膜との間に生じる「べたつき」に着目し、工業用粘着テープの評価に用いられるはく離試験を応用しました。ホタテムースと全粥を試料とし、増粘剤や唾液モデルを加えた条件で、咽頭部表面を模したシリコンシートとのせん断力・はく離力を計測する手法を開発したことで、嚥下時の食品の残留や飲み込みやすさを直接評価できるようになりました。これにより、従来の粘度評価だけでは見逃されていた「咽頭への残りやすさ」なども評価可能となりました。

実験の結果、ホタテムースは増粘剤の添加によって付着力が増してはく離しにくくなり、粘度測定による従来の評価手法と同じ傾向を示しました。唾液モデルの添加によって付着力が低下しましたが、シリコンシート表面には残存してしまい、結果として飲み込みにくくなってしまう可能性が示されました。一方で、全粥のように米粒と液体が混ざった不均質な食品では、増粘剤によって粘度が低下したにも関わらず、せん断力・はく離力には大きな変化が見られず、従来の粘度評価だけでは「飲み込みやすさ」を予測するのが困難なことが明らかとなりました。唾液モデルの添加によってシリコンシートへの残存が無くなったことから、全粥の場合には唾液が飲み込みやすさに寄与することを定量的に示しました。

本手法により、固形に近い嚥下食を対象にした「飲み込みやすさ」の評価法が確立できたと言えます。今後は、唾液に含まれる消化酵素の効果やより現実的な咽頭粘膜モデルを組み合わせた実験系を構築し、個々の患者の状態に応じた食事設計や、嚥下リハビリテーションへの応用を目指していきます。

なお、本研究成果は、2025728日(月)公開のFood Hydrocolloids誌にオンライン掲載されました。

論文名:Adhesion testing of dysphagia diets for the quantitative evaluation of swallowing(嚥下の定量的評価に向けた嚥下障害食の粘着力試験)
URL:https://doi.org/10.1016/j.foodhyd.2025.111816

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