2025年8月22日
ポイント
●北海道イネ品種の早生化遺伝子と穂の形成の特性を詳しく解析。
●札幌市と三重県伊賀市での栽培比較から北海道品種の適性を検証。
●北海道品種の関東以南での避暑型水稲の超早期作型を提案。
概要
北海道大学大学院農学院博士後期課程の坂口俊太郎氏、農学研究院の貴島祐治教授、三重県農業研究所の太田雄也氏らの研究グループは、北海道札幌市、三重県伊賀市及び宮崎県宮崎市で北海道のイネ系統を用いた栽培試験を実施し、早生化を制御する遺伝的・環境的要因を詳細に解析しました。その成果として、関東以南で夏の酷暑を避けて栽培できる「避暑型水稲」を提案しました。
イネは短日植物で、本来、夏至からの日照時間が短くなるお盆をすぎないと穂ができない「感光性」と呼ばれる性質を持っています。そのため、本州の品種を北海道で栽培すると、穂が出て花が咲く9月には気温が不足し、十分な稔実が得られません。これに対し、北海道品種は感光性の能力を失い、日照時間に反応しない代わりに、温度をシグナルとして穂を形成する「非感光性」という性質を持っています。この「非感光性」によって、日照時間の長い北海道の夏の環境でも穂を作り、花を咲かせる「早生」を可能にしています。
しかし、北海道品種には「穂揃いの不良」や「不時出穂」といった課題が知られています。本研究では、「穂揃いの不良」や「不時出穂」が北海道品種特有の早生性と密接に関連すること、さらにこの早生化を強化し、「穂揃いの不良」や「不時出穂」を悪化させる遺伝子が北海道品種内に存在することを明らかにしました。これらの短所は北海道では顕著でしたが、伊賀市での試験では緩和されることも確認されました(表1)。研究グループは、北海道品種の非感光性を関東以南の品種に導入することで、2月下旬~3月上旬に栽培を開始し、7月初旬には収穫できる「超早期作型」による酷暑を回避できるイネ栽培が有効であると提案しています。
なお、本研究成果は、2025年7月31日(木)公開の学術誌 Breeding Science にオンライン掲載されました。
論文名:Genetic and environmental regulation of early heading in photoperiod-insensitive rice: Impacts on heading synchrony, premature heading, and tiller development lag(非感光性イネ品種において早生化を制御する遺伝的及び環境的要因は、穂揃い、不時出穂及び分げつラグ期に影響する)
URL:https://doi.org/10.1270/jsbbs.25002
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