2025年9月8日
ポイント
●ピロリ菌ゲノムを解析し、胃がん患者のピロリ菌が特定の制限酵素を持っている相関を発見。
●胃がん患者のゲノムでは、制限酵素が塩基を切り出す配列に変異があることを特定。
●細胞や細菌を用いた実験系で、DNA切断と変異生成を再現。
概要
北海道大学大学院情報科学研究院の長田直樹准教授は、国内多数の研究者及びアメリカの国立がん研究所がリードするピロリ菌ゲノム国際プロジェクト(HpGP)との共同研究により、胃の中に生息するピロリ菌ががんを起こすメカニズムの一端を解明しました。
胃がんの主な原因はピロリ菌ですが、それがどのようにしてヒトのゲノムに働きかけて、がんを起こすかは不明でした。本研究では、ピロリ菌の持つ特別な制限酵素(DNAを特定の配列で切るハサミ)が、ヒトのゲノムに働いて変異と切断を起こし、がんを創り出す次の四つの証拠を得ました。
・世界中のピロリ菌を集めてゲノムを読んで、「胃がん患者由来であること」と、「この制限酵素を持つこと」との相関を明らかにしました。
・胃がんのゲノムでは、この制限酵素が塩基を切り出す配列で変異が頻発していました。
・ヒト細胞にピロリ菌を感染させると、この制限酵素によってゲノムの切断が起きました。
・細菌の変異検出実験系で、この制限酵素は変異生成を10倍以上高めました。
この制限酵素は、DNAから塩基(アデニン、A)をまず切り出す「塩基切り出し型」という新型です。他の種類のがんについても、ゲノムの変異の特徴から、特定の細菌の特定の制限酵素が関わっていることを予想しました。この発見によって、がんのでき初めの理解に突破口が開けました。がんの医療にも影響が及ぶでしょう。
なお、本研究成果は、2025年8月5日(火)公開のPNAS Nexus誌にオンライン掲載されました。
論文名:Helicobacter pylori base-excision restriction enzyme in stomach carcinogenesis(胃がん形成におけるピロリ菌の塩基切り出し型制限酵素)
URL:https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgaf244
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