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コンデンシンはリンカーヒストンと競合してヘテロなDNA構造を形成する~分裂期染色体形成の生物物理の解明に期待~(総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点 特任准教授 山本哲也)

2025年9月25日

北海道大学
理化学研究所

ポイント

●絡み合ったDNAが非一様(ヘテロ)な表面を形成する原因を解析する熱力学モデルを構築。
●コンデンシンとリンカーヒストンの競合がDNAゲルの表面で相分離を誘起。
●分裂期染色体の形成機構の理解の進展に期待。

概要

北海道大学総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の山本哲也特任准教授と理化学研究所開拓研究所の新冨圭史専任研究員、平野達也主任研究員らの研究グループは、ソフトマター物理学と生化学の融合研究によって、分裂期染色体の形成プロセスを妨げた際に出現する奇妙な形状のDNA構造が作られるしくみを説明する物理理論の構築に成功しました。

細胞が分裂する直前(分裂期)には、ゲノムDNAが折りたたまれ、分裂期染色体と呼ばれる棒状の構造が形成されます。コンデンシンと呼ばれるタンパク質複合体は、染色体形成に不可欠な因子として同定され、近年ではDNAループを形成する活性を持つことが明らかにされています。しかし、細胞内で、コンデンシンが、どのように他の染色体構成タンパク質と協調し、染色体形成を促進するかについては十分に理解されていません。新冨と平野は、カエル卵抽出液中を用いて、精子由来のDNAを分裂期染色体へ変換する実験系を駆使し、染色体形成を生化学的視点から研究してきました。その過程で、染色体の基本構造であるヌクレオソームが作られず、さらに、DNAの絡まりが解消されない条件で、「スパークラー」と呼ばれる奇妙な形状の構造が形成されることを発見しました。スパークラーは、DNAが凝集したコアから放射状に複数の突起が伸びた形状をしており、突起の先端ではコンデンシンが集中し、その他の領域にはリンカーヒストンが高濃度で存在しています。この観察から、これらのタンパク質の競合がスパークラー形成に重要な役割を果たすと考えられました。

本研究では、コンデンシンとリンカーヒストンの競合に注目し、スパークラー形成を説明するための熱力学モデルを構築しました。その結果、コンデンシンが形成するDNAループは、コンデンシンの濃度が高い領域とリンカーヒストンの濃度が高い領域に分かれる(相分離する)ことが分かりました。さらに、リンカーヒストン濃度が高いループは不安定であるために消失する一方、コンデンシン濃度が高いループは残留することが示されました。このように形成された絡み合ったDNAの非一様(ヘテロ)な表面構造がスパークラーの形成の原因となることを示唆するものです。

なお、本研究成果は、2025925日(木)公開のBiophysical Journal誌にオンライン掲載されました。

論文名:Reorganization of DNA loops by competition between condensin I and a linker histone(コンデンシンIとリンカーヒストンの競合によるDNAループ構造の再構築)
URL:https://doi.org/10.1016/j.bpj.2025.09.002

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