2025年9月17日
ポイント
●ラクロスウイルスに対して既存の化合物よりも高い増殖阻害活性を示す化合物を発見。
●ラクロスウイルス感染動物に本化合物を投与することで、生存期間が延長。
●キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤が脳炎ウイルスに対する治療薬として有望。
概要
北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所の大場靖子教授、佐々木道仁准教授、五十嵐学准教授、佐藤彰彦客員教授(塩野義製薬株式会社)、小西 慧客員研究員(塩野義製薬株式会社)、同総合イノベーション創発機構ワクチン研究開発拠点の澤 洋文教授らの研究グループは、ラクロスウイルス(La Crosse virus; LACV)に対して抗ウイルス活性を有する化合物を発見しました。
ラクロス脳炎はLACVによって引き起こされる蚊媒介性の感染症であり、主に北米や西欧諸国で症例が報告されています。重篤な感染病態として小児における脳炎症状が特徴的であり、未だラクロス脳炎に対する治療薬は存在しません。研究グループは過去に、ウイルスが持つキャップ依存性エンドヌクレアーゼ(cap-dependent endonuclease; CEN)を標的とした抗ウイルス化合物であるcarbamoyl pyridone carboxylic acid (CAPCA)-1を同定しており、今回の研究では本化合物のラクロス脳炎感染症に対する有効性を評価しました。その結果、培養細胞を用いた実験において、CAPCA-1は既存化合物よりも強い抗ウイルス活性を有することを確認しました。また、CEN遺伝子領域に変異を持ったLACVに対してCAPCA-1の抗ウイルス活性が低下したことから、CAPCA-1はLACVのCENを標的としていることが示唆されました。さらに、研究グループはLACV感染動物を用いた実験により、本化合物を投与が感染マウスの脳内ウイルス量を減少させ、感染マウスの生存期間を延長させることを明らかにしました。
本研究により、CEN阻害剤がラクロスウイルスの増殖阻害薬として有効であることが確認され、この成果によって新規治療薬の開発が進むことが期待されます。
なお、本研究成果は、2025年7月23日(水)公開のAntimicrobial Agents and Chemotherapy誌にオンライン掲載されました。
論文名:A cap-dependent endonuclease inhibitor acts as a potent antiviral agent against La Crosse virus infection(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤はラクロスウイルス感染に対する抗ウイルス化合物として作用する)
URL:https://doi.org/10.1128/aac.00186-25
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