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自制する利己的遺伝子~金魚草の動く遺伝子Tam3の動きを抑制する遺伝子は自身の配列だった~(農学研究院 教授 貴島祐治)

2025年9月29日

ポイント

●金魚草の色や形の変化を引き起こす「動く遺伝子」Tam3の動きを止める二つの遺伝子を特定。
●それらはTam3自身の配列から派生したコピー遺伝子と判明。
●それぞれの遺伝子から発生したsmall RNAが動く遺伝子を止める新しい仕組みを解明。

概要

北海道大学大学院農学院博士後期課程の王 莎莎氏、同大学大学院農学研究院の貴島祐治教授らと英国John Innes Centreのキャシー マーチン教授の研究グループは、金魚草で「動く遺伝子」として知られるトランスポゾンTam3の活動を特異的に抑える二つの遺伝子を同定しました。トランスポゾンは殆どの生物のゲノムに複数のコピーが散在するDNA配列で、無秩序に自己増殖するため、利己的因子と言われています。同定した二つの遺伝子はOld StabiliserOSt)とNew StabiliserNSt)と呼ばれ、Tam3自身の配列から派生してできたものでした。

Stabiliser遺伝子は1960年代から、金魚草の花の斑入り模様や形の不安定な変化を抑える働きがあることで知られていました。その後、金魚草の形質の不安定性は、トランスポゾンTam3の動く性質(染色体上を転移する=転移)と関連することが分かり、Stabiliser遺伝子はTam3の活動を抑える機能を持つことが示唆されてきました。本研究では、OStNStの正体が、Tam3自身から生じた派生物であることを発見しました。

研究グループは、さらに、OStNStTam3配列の一部をもとに小さなRNA断片(small RNA)を生み出し、それがTam3の働きを妨げることで転移を抑えていることを解明しました。つまり、自分のコピーを使って自らの活動にブレーキをかける"自己抑制の仕組み"が存在していたことになります。

この成果は、利己的因子として存在する動く遺伝子であっても「自己を制御する」ことを示す新しい知見です。多くの有害な遺伝変異の発生源である動く遺伝子を特異的に制御するための重要な成果です。

なお、本研究成果は、202592日(火)公開の国際学術誌Plant Physiologyにオンライン掲載されました。

論文名:Two Stabiliser loci suppress Tam3 transposition without compromising transposase production in Antirrhinum(金魚草の二つのStabiliser遺伝子座はトランスポゾンTam3の転移酵素の生産を損なうことなく転移を抑える)
URL:https://doi.org/10.1093/plphys/kiaf396

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金魚草の花の斑入り模様