2025年10月14日
ポイント
●約90年前に、菅原繁蔵氏によって命名規約上無効の状態で発表されたマメ科ゲンゲ属を再検討。
●形態の精査に基づき新種と結論。スガワラオウギAstragalus sugawaraeと命名。
●産地はサハリン中部の石灰岩地。標本が採集されたのは一度のみで、現状は不明。
概要
北海道大学総合博物館ボランティアの横山(木村)耕氏と同館の首藤光太郎助教による研究グループは、約90年前に新種として発表されたものの命名規約上無効だったマメ科ゲンゲ属の学名を再検討し、形態精査に基づき新種であったことを発見・報告しました。この植物をサハリンで最初に発見し、無効ではあったものの新種として発表した菅原繁蔵氏(1876~1967)に献名し、スガワラオウギAstragalus sugawarae Kimura-Yokoyama & Shutohと命名しました。
菅原繁蔵氏は、戦前サハリンで32,000点に及ぶ植物標本を採集し、その集大成として全4巻からなる「樺太植物図誌」を出版しました。この書籍の中で、「ミヤマオウギAstragalus calcareus Sugawara」を新種として発表しましたが、ラテン語による形態の記載文が伴わなかったため、この学名は命名規約上無効となっていました。横山氏と首藤助教は、菅原氏が当時採集・引用した「ミヤマオウギ」の標本を探し、形態をゲンゲ属の既知種と改めて比較しました。その結果、この標本は黄白色の花をもつ点、葉の裏に白色の毛のみが見られる点で、ゲンゲ属のいずれの既知種とも異なっていました。混同しやすい和名と、同じ種小名をもつ他の学名がすでに発表されていたことから、新種として新たな和名・学名を提案・発表することにしました。
菅原氏が当時標本を採集したのはサハリン中部の石灰岩地です。その後この地点での調査や採集記録はなく、新種として発表することはできたものの、この植物が現在も同じ場所に生育しているか、消息は不明です。
なお、本研究成果は、2025年9月12日(金)公開のJournal of Asia-Pacific Biodiversity誌にオンライン掲載されました。
論文名:A new vascular plant species from Sakhalin, Astragalus sugawarae Kimura-Yokoyama & Shutoh (Fabaceae), based on edescription of an invalid protologue(無効の初発表文の再記載に基づくサハリン島産の維管束植物の一新種スガワラオウギ)
URL:https://doi.org/10.1016/j.japb.2025.08.001
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