2025年10月2日
ポイント
●フィリッピン海プレートが南関東帯水層に多量のヨウ素、メタン、水素を供給。
●沈み込む海洋堆積物の地震破壊に伴う液体ヨウ素の気化(フラッシュ蒸発)。
●プレート三重点での広大な帯水層の形成とヨウ素、メタンの濃集。
概要
北海道大学の鈴木德行名誉教授(元同大学大学院理学研究院教授)、岡山大学の亀田 純教授、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構の天羽美紀特命調査役らの研究グループは、フィリッピン海プレート(PHS)と共に沈み込んでいる海洋堆積物より、小規模なプレート境界地震によってメタン、水素と共にヨウ素がフラッシュ蒸発して排出され、南関東の地下に世界最大のヨウ素・メタン濃集帯水層を形成していることを解明しました。
南関東地下の上総層群帯水層には世界のヨウ素埋蔵量の約65%(約400万トン)が濃集し、水溶性メタンの産出量も世界最大です。しかし、なぜこのような莫大な量のヨウ素がメタンと共に同帯水層に濃集しているのか不明でした。関東地方では太平洋プレート(PAC)とPHSがヨウ素を含む海洋堆積物と共に地下深部に沈み込んでいます(図1)。本研究では、このような堆積ヨウ素の物理化学的状態や挙動を推定するため、ヨウ素分子の高温高圧状態図を作成しました。また、プレート境界で頻発する地震破壊がヨウ素分子の挙動に与える影響を検討しました。その結果、ヨウ素分子はPHSでは液体として、PACでは固体として存在していることが明らかになりました。液体のヨウ素分子は小規模な地震でもフラッシュ蒸発し、熱分解メタン・水素と共にPHSから排出されます。PHSの沈み込み帯では深部流体が活動的でヨウ素、メタン、水素の移動に有利です。また、プレート三重点付近の地殻変動によりPHSの直上に広大な上総層群帯水層(約280~50万年前)が形成され、ヨウ素、メタン、水素を効果的にトラップしています。水素は水素資化性メタン菌に活用され、微生物メタンの生成を促進しています。このような熱分解メタンや微生物メタンが、水溶性メタンとしてヨウ素と共に集積し、南関東に世界最大規模のヨウ素・メタン濃集帯水層が形成されました。ヨウ素やメタンの集積は現在も継続しています。
日本にはPHSの沈み込み帯が広く分布しており、ヨウ素とメタンが濃集した未発見の帯水層が存在している可能性があります。ヨウ素は以前から広く活用されていますが、最近では液晶やペロブスカイト太陽電池に利用されるなど、技術革新を促しています。日本に特有なヨウ素資源をさらに活用して先端的技術革新を実現し、人類社会の発展に寄与することが期待されます。
なお、本研究成果は2025年9月10日(水)公開の国際学術誌Chemical Geologyにオンライン掲載されました(紙媒体は2025年11月5日(水)に発行予定です)。
論文名:Flash vaporization and migration of iodine in the oceanic plate subduction zone.(海洋プレート沈み込み帯でのヨウ素のフラッシュ蒸発と移動)
URL:https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2025.123031
詳細はこちら