2025年10月31日
ポイント
●ヒトの涙液油層を構成する脂質の詳細な組成の解明に成功。
●ワックスジエステルにはタイプ1ωと2ωがあり、膨大な分子種から構成されることを解明。
●ドライアイ診断法の開発に期待。
概要
北海道大学大学院薬学研究院の木原章雄教授らの研究グループは、涙液油層を構成する多様な脂質のクラス及び分子種の詳細について明らかにしました。
水溶液成分のみで構成されると考えられがちな涙液には実は外側に油層が存在し、涙液からの水分の蒸発を防ぐことによって角膜の健康を維持し、ドライアイを防いでいます。涙液油層の脂質は主に瞼に存在するマイボーム腺から分泌される脂質(マイバム脂質)で構成されています。マイバム脂質には多様な脂質が含まれていますが、ヒトにおけるこれらの脂質のクラスと分子種には不明な点が多く残されていました。研究グループは液体クロマトグラフィー連結タンデム質量分析の多重反応モニタリングモードという高選択性、高感度、高定量性の測定法を用いて、ヒトのマイバムと涙液中の脂質を測定し、8クラス、約700の分子種の測定に成功しました。この分子種数はこれまで測定されたマイバム/涙液脂質としては最大数でした。ヒトのワックスジエステルに関してはこれまでタイプすら不明でしたが、研究グループはタイプ1ωと2ωであることを見出しました。このうち、タイプ1ωワックスジエステルは特に多様性に富んでいました。
以上、研究グループはヒトのマイバム及び涙液の詳細な脂質組成を明らかにしました。この成果は涙液油層の形成とドライアイ防止の分子機構の解明に寄与しただけでなく、開発した手法はドライアイ診断法の開発へとつながることが期待されます。
なお、本研究成果は、日本時間2025年10月30日(木)公開のScientific Reports誌に掲載されました。
論文名:Comprehensive lipid analysis of human meibum and tears(ヒトのマイバムと涙液中の脂質の包括的な解析)
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-025-23048-1
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脂質の構造模式図(左)において、黒は脂肪酸、紫はコレステロール、オレンジは脂肪族アルコール、赤は水酸化脂肪酸、青は脂肪族ジオール、茶はグリセロール、緑はホスホコリン、ピンクは長鎖塩基を示す。



















