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応力光学法則の適用限界を明らかに~複雑流動の光弾性計測に新たな指針~(工学研究院 教授 田坂裕司)

2025年10月29日

ポイント

●高分子溶液などの複雑な流体に対して、複屈折を用いた光弾性計測は何を教えてくれるのかを調査。
●制御性と再現性に優れた振動回転円筒内流れを用いて、光弾性計測の「答え合わせ」を実施。
●応力光学法則の適用限界を明らかにすることにより、今後の計測手法発展に貢献。

概要

北海道大学大学院工学研究院の田坂裕司教授、ペンシルバニア大学の能登大輔研究員(研究当時:北海道大学大学院工学研究院)、名古屋大学の大家広平助教(研究当時:北海道大学大学院工学研究院)の研究グループは、複屈折による光弾性計測を複雑な流体の非定常せん断流れに用いた場合、呈する干渉色とその時間変化が、必ずしも局所の流れのひずみやひずみ速度などと一致しないことを、精緻な流れの計測により明らかにしました。この結果は、現在開発が進む、光弾性を用いた流れの応力場計測法とその適用に一石を投じるものであり、新たな開発の指針とさらなるイノベーションがもたらされることが期待されます。

様々な機能性を持つゲルなど、高分子科学の発展がもたらす「柔らかい材料」の可能性が広がっています。材料の生産性を向上させるには、生産工程で生じる材料の流動状態を把握することが重要ですが、その方法として現在、プラスチックなど固体材料の計測で用いられてきた、複屈折による光弾性計測を流動体に適用する研究が進められ、「複雑な流体の瞬時応力場計測が可能」になる夢の技術として注目されています。複雑な内部ミクロ構造を持たない単純な流体に対しては、確かに数値計算などと一致する結果が得られる一方で、答えの分からない複雑な流体に対してもたらされる結果は、実際に何が計測されているのか不透明なままの状態が続いていました。

本研究では、研究グループが別途複雑流体の物性計測のために用いてきた、振動回転する円筒容器内の流れに対して精緻な流れ計測を行い、瞬時のひずみ速度場とその時間変化を定量化しました。制御性と再現性に優れた流れの装置を用いることで、光弾性計測の応用対象である高分子水溶液などの複雑流体に対して、光学パターンとして得られる複屈折(ミクロ構造の状態に対応)との直接比較・評価をすることが可能となりました。

実験の結果、これまで「対応する」と言われてきた瞬時の複屈折と局所ひずみ速度は一致せず、位相を調整した変動や、ひずみに相当する積分値、時間変動の実効値のどれをとっても結果は同じでした。つまり、「複雑な流体の非定常なせん断流れに対しては、複屈折からはひずみ速度場、ひいては応力場は計測できない」ことを意味します。この原因を探るため、思考実験とそれに伴う検証実験を行い、少なくとも複屈折とひずみ速度が実効値のレベルで一致するためには、計測対象の複雑流体が、弾性を持つような十分に長い緩和時間を持つことが必要であることを示しました。

これらの結果は、開発の機運を後退させる一見悲観的な結果に見えますが、「複屈折が反映している情報の正体」と手法の限界や適用範囲が明示されたことで、複屈折を用いた計測法の新たな展開と、この結果を基にした新たな技術のイノベーションがもたらされることが期待されます。

なお、本研究成果は、20251024日(金)公開のNature Communications誌に掲載されました。

論文名:Unsteady flows uncover the limits of the stress-optic law(非定常流れが明らかにする応力光学法則の限界)
URL:https://doi.org/10.1038/s41467-025-64461-4

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