新着情報

ホーム > 新着情報 > プレスリリース(研究発表) > ヤクシカの高い遺伝的多様性に数千年前の巨大噴火が影響~火砕流によるボトルネックからの回復が多様性増加をもたらした~(北方生物圏フィールド科学センター 学術研究員 揚妻-柳原芳美)

ヤクシカの高い遺伝的多様性に数千年前の巨大噴火が影響~火砕流によるボトルネックからの回復が多様性増加をもたらした~(北方生物圏フィールド科学センター 学術研究員 揚妻-柳原芳美)

2025年11月28日

ポイント

●屋久島のヤクシカ個体群がボトルネックを経験していたことが明らかに。
●火砕流の影響が大きかった地域でも、高い遺伝的多様性。
●特に西部の世界遺産地域の集団は島内の他の集団と異なる遺伝的特徴を持つことが判明。

概要

北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの揚妻-柳原芳美研究員、揚妻直樹教授、同大学大学院地球環境科学研究院の早川卓志助教の研究グループは、世界自然遺産地域を含む鹿児島県屋久島の全域を対象に、ニホンジカの固有亜種であるヤクシカの遺伝的多様性を調査しました。屋久島は標高1,800mを超す山々が連なる山岳島のため、捕獲個体から遺伝子試料を採取する従来のやり方では全島的な遺伝解析は困難でした。しかし、研究グループはシカの糞から遺伝子解析する手法を独自に開発していたため、山岳部を含む屋久島全域での遺伝解析をすることができました。糞から抽出したミトコンドリアDNAの中でも変異速度の速い領域を分析した結果、ヤクシカは大きく二つの遺伝的集団に分かれることが示されました。この二つの集団は、約7,300年前に屋久島の北西沖で起こった海底火山の巨大噴火による火砕流の影響が大きかった地域と、比較的小さかった地域とにそれぞれ分布が一致していました。火砕流の影響が大きかった地域のヤクシカ集団は、壊滅的な個体数の減少(ボトルネック)を経験したものの、植生の回復とともに急速に増加し、噴火の影響が小さかった地域には見られない新たな遺伝子タイプを獲得していました。さらに、唯一、海岸部まで世界遺産地域に指定されている西部地域は、火砕流の影響が大きかったにもかかわらず、比較的小さかった地域の特徴を示すだけでなく、どの地域とも異なる遺伝的特徴を有していました。このことからヤクシカの遺伝的多様性の維持には、西部地域の集団の保全が重要となることが示唆されました。

なお、本研究成果は、20251112日(水)公開のScientific Reports誌にオンライン掲載されました。

論文名:Post-bottleneck increase in mitochondrial DNA diversity in Yaku sika deer (Cervus nippon yakushimae) on Yakushima Island, Japan(屋久島におけるヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)のミトコンドリアDNA多様性のボトルネック後の増加)
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-025-23191-9

詳細はこちら


ヤクシカの0歳児。ヤクシカは、ニホンジカの中で最も小型の亜種で、屋久島と口永良部島にのみ生息する。