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海を越えても共通だった小型蛾類の食性進化パターン~日本固有の新種の存在も明らかに~(農学研究院 教授 吉澤和徳)

2025年12月8日

北海道大学
京都府立大学

ポイント

●蛾類「ニセキンホソガ属」で何度も起きた特定の食性進化パターンを、種間の系統関係から解明。
●日本固有の新種「トチニセキンホソガ」を発見し、種内の特異な遺伝構造を解明。
●昆虫と植物の複雑な進化的関係の理解深化に貢献。

概要

北海道大学大学院農学院博士後期課程1年の澤田昌恭氏、同大学大学院農学研究院の吉澤和徳教授、京都府立大学大学院生命環境科学研究科の大島一正教授らの研究グループは、新種トチニセキンホソガを含む近縁な蛾類昆虫の間で繰り返し起きた餌植物利用パターンの進化を明らかにしました。

ニセキンホソガ属蛾類の幼虫は種ごとに異なる餌植物を利用しますが、カエデを利用する種及びトチノキを利用する種の存在が北半球から複数知られていました。本研究では、それらの種の詳細な系統関係を初めて明らかにし、ニセキンホソガ属の進化過程で餌植物がどのように変更されてきたかを検討しました。その結果、各トチノキ利用種はそれぞれ異なるカエデ利用種と最も近縁なことが判明し、ニセキンホソガ属において餌植物をカエデからトチノキ、あるいはその逆順で変更する進化が少なくとも3回起きたことが分かりました。さらに、そのような餌植物の進化的変化は、北アメリカで1回、ヨーロッパ~アジアで2回生じたことが示唆されました。また、日本のトチノキを利用するトチニセキンホソガCameraria serena Sawada & Ohshimaを新種として発表しました(和名新称)。集団遺伝学的解析の結果、植物を食べる昆虫としては珍しく、本種が餌植物(トチノキ)と全く異なる地理的・遺伝的構造を持つことが明らかになりました。

これらの結果は、植食性昆虫の餌植物の変更が無秩序ではなく一定の傾向下で起こることを意味し、進化の法則性という究極的な問いの解明に繋がるものです。また、種間と種内の両方の検討によって植食性昆虫の複雑な進化的背景の理解が深まることを強調しています。

なお、本研究成果は、2025121日(月)公開のBiological Journal of the Linnean Society誌にオンライン掲載されました。

論文名:Host-shifting pattern common in relatives: phylogenetic study of Sapindaceae-associated Cameraria (Lepidoptera: Gracillariidae), with a description and population genetics of Cameraria serena sp. nov.(近縁種間で共通する食草転換パターン:ムクロジ科植物を利用するニセキンホソガ(鱗翅目ホソガ科)の系統学的研究、及び新種トチニセキンホソガの記載と集団遺伝)
URL:https://doi.org/10.1093/biolinnean/blaf082

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トチニセキンホソガ(新種)の成虫(左)
幼虫がトチノキの葉の内部に潜っている様子(右)