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受精卵の多くの遺伝子を調べる生殖医療への提言~将来の子の健康や知能を予想する多遺伝子スコア検査の落とし穴と必要な対応~(安全衛生本部 教授 石井哲也)

2026年2月27日

ポイント

●胚の多遺伝子スコアは信頼性に懸念があるが、望ましい子を欲する夫婦の利用が拡大見通し。
●生まれた子は親が期待した性質を示すとは限らず、また様々な倫理社会的問題が生じうる。
●日本を含め、生殖医療が盛んな国は人々に注意を喚起しつつ、法規制を進めることが喫緊の課題。

概要

北海道大学安全衛生本部の石井哲也教授は、多遺伝子スコアを利用する生殖医療について臨床、倫理及び法の観点から分析を行い、重大な問題につながる可能性を認め、必要な対応を提言しました。

胚のゲノムを調べ、生後の健康リスク、身長、知能などを予想する着床前遺伝学的検査の提供が米国で始まり、波紋が世界に広がっています。この検査は複雑な性質に関連する遺伝子群の効果をスコア化しますが、その信頼性には目下、懸念があります。一方、"より健康な"、"より賢い"子などを求める夫婦らにとって、将来の子の性質に影響する遺伝学的情報をシンプルにまとめた多遺伝子スコアは一見、明快に映り、生殖利用が今後拡大すると推測されました。しかし、生まれた子は親も含む環境、子の自己決定やゲノムの要因から期待された性質を現すとは限りません。生殖医療が盛んな10か国の規制状況を調べると、英国は多遺伝子スコアを提供する着床前遺伝学的検査を違法と明言していますが、米国とロシアは許容、日本を含む7か国はおそらく不許可と解釈されました。社会で無秩序な利用が広がれば、子のモノ扱い、特定形質の人々への偏見が増長する恐れがあります。関連学会や国は人々に多遺伝子スコアの生殖利用を警告するとともに、法令の点検を急ぐべきであるといえます。

なお、本研究成果は2026226日(木)公開のFrontiers in Reproductive Healthにオンライン掲載されました。

論文名:Precautions for polygenic embryo selection: Prohibition or cautious use(多遺伝子に基づく胚選別への注意:禁止あるいは慎重な利用)
URLhttps://doi.org/10.3389/frph.2026.1771127

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着床前遺伝学的検査(Preimplantation Genetic Testing: PGT)の従来の利用と新しい利用
Monogenic disease(単一遺伝子疾患)を起こす変異がない胚を選ぶPGT-Mと、多くの遺伝子の情報から複雑な性質を予想するためのPolygenic Score(多遺伝子スコア、PS)を算出するPGT-PSは検査フローが似る。しかし、胚のPS算出は複雑で、またPGT-Mと異なり、PGT-PSで生まれた子で性質を確認するには成長、加齢の過程における環境からの影響も必要であり数年から数十年を要する。