2026年3月13日
北海道大学
微生物化学研究所
ポイント
●キナーゼファミリーメンバー間における潜在的かつ階層的な冗長性の存在を発見。
●この冗長性は発生初期において機能階層の最上位メンバーの失活によってのみ発動する。
●発生初期に逸失した冗長性の後生的な再生による革新的な疾患予防・制御法の開発に期待。
概要
北海道大学遺伝子病制御研究所の紙谷尚子准教授、畠山昌則特任教授(微生物化学研究会微生物化学研究所部長クロアポ兼担)らの研究グループは、胚発生初期において特定の遺伝子に致死的変異が存在する場合に限り、そのファミリー遺伝子が個体を胎生致死から守る機能的冗長性を獲得するというユニークな生物の生存戦略機構を明らかにしました。
遺伝子の冗長性とは、生物のゲノム内に同じ機能を持つ複数の遺伝子が存在することです。進化の過程で兄弟のような遺伝子群(ファミリー)が形成されると、一つの遺伝子が壊れても、その機能が他のファミリーにより代償されるため、生物の生存において重要な役割を果たします。例えば、ファミリーを形成する遺伝子Xと遺伝子Yの間に冗長性がある場合、常に遺伝子XとYの両方が働く様式もあれば、通常は遺伝子Xがメインで働き、遺伝子Xが機能しなくなると遺伝子Yが働く様式もあります。どちらの様式でも、ファミリー遺伝子XとYは、働いているか否かに関わらず、本質的に同じ機能を保有しています。これが、従来から理解されてきた遺伝子ファミリーにおける冗長性です。
研究グループは、成体マウスを構成する種々の細胞においてセリン/スレオニンキナーゼPAR1bの不活化が強い細胞死を誘導することを見出しました。一方、先天的にPAR1bを破壊したPAR1bノックアウトマウスは胎生致死とはならず、成体まで生存可能です。PAR1bにはファミリー遺伝子であるPAR1aが存在することから、PAR1bノックアウトマウスではPAR1aがPAR1bの機能を代償できると予想しました。そこで、野生型細胞(変異のない正常な細胞)においてPAR1bを破壊したところ、期待通り細胞死が誘導されました。一方で、PAR1aを破壊しても細胞は順調に成長・増殖を続けました。したがって、野生型細胞では、PAR1bとPAR1aの間に冗長性は存在しません。これに対し、PAR1bノックアウトマウス由来細胞では、PAR1aの破壊により細胞死が誘導されました。したがって、胚発生初期からPAR1bを欠損している場合に限り、PAR1aがPAR1bの機能を代償することができると考えられます。言い換えると、PAR1bが発生初期から正常に機能している細胞では、同一ファミリー内のPAR1bとPAR1aの間の機能的冗長性は形成されないと結論づけられます。
致死的な遺伝子変異に対する冗長性の獲得は、生物が生存するための重要なメカニズムと考えられます。実際、細胞レベルで冗長性遺伝子を持たず生存に必須とされる遺伝子を破壊しても個体レベルでの生存が可能となるケースが知られています。本研究が明らかにした遺伝子ファミリー間の(通常は秘匿化されている)潜在的な冗長性の存在が、個体死の回避に関与している可能性が示唆されます。
なお、本研究成果は、2026年3月12日(木)公開のScientific Reports誌にオンライン掲載されました。
論文名:Cryptic redundancy between PAR1b and PAR1a, two members of the PAR1 kinase family, in the survival of PAR1b-knockout mice(PAR1bノックアウトマウスの生存における、PAR1キナーゼファミリーの二つのメンバーであるPAR1bとPAR1aの間の潜在的な冗長性)
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-026-39737-4
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