新着情報

ホーム > 新着情報 > プレスリリース(研究発表) > 細胞中のミトコンドリアの熱産生機構を解明~電気化学の視点から過電圧による熱散逸メカニズムを解明~(触媒科学研究所 准教授 武安光太郎)

細胞中のミトコンドリアの熱産生機構を解明~電気化学の視点から過電圧による熱散逸メカニズムを解明~(触媒科学研究所 准教授 武安光太郎)

2026年5月26日

北海道大学
筑波大学

ポイント

●ミトコンドリアの熱産生は、従来のプロトンリークではなく、酵素反応の過電圧によるものと解明。
●新指標「電子伝達頻度(ETF)」を導入し、呼吸エネルギーの45〜71%が熱散逸すると定量評価。
●呼吸鎖の複合体IVでの酸素還元反応が、全体の70%以上を占める主要発熱部位と特定。

概要

北海道大学触媒科学研究所の武安光太郎准教授(筑波大学数理物質系客員准教授兼務)、中村潤児客員教授(研究当時:筑波大学数理物質系/九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所のヌニン アヌグラー プトリ ナマリ博士(研究当時)らの研究グループは、ミトコンドリアにおける熱産生メカニズムについて、非平衡反応系としての理解に基づいて、電気化学の概念を用いることで新たなメカニズムを解明しました。

これまで、細胞内の熱産生はミトコンドリア内膜の「プロトンリーク」によるものとされてきましたが、その物理的なメカニズムは十分に分かっていませんでした。本研究では、燃料電池などの電気化学システムにおけるエネルギー散逸(ジュール熱)の概念を生物システムに応用しました。酵素の電子伝達プロセスを単一サイトレベルで分析するための新たな速度論的指標「電子伝達頻度(ETF)」を導入し、電子伝達系を電気化学回路としてモデル化しました。その結果、呼吸によって得られるエネルギーの4571%が酵素反応を駆動するための「過電圧」として消費され、熱散逸する(熱として失われる)ことが明らかになりました。特に、複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ)における酸素還元反応(ORR)が全体の70%以上の熱を生み出す主要な要因であることを突き止めました。また、従来の「プロトンリーク」は直接的な熱源ではなく、膜電位を低下させることで、結果的に直接的な熱源である過電圧による熱散逸を増幅させていることを実験データを基に示しました。

本研究の成果は、ミトコンドリアにおける熱産生の直接的な原因が、従来考えられてきたプロトンリークそのものではなく、電子伝達反応に伴って生じる過電圧によるエネルギー散逸であることを示したものです。さらに、プロトンリークは膜電位を低下させることで過電圧損失を増大させ、結果として熱産生を増幅することを提案しました。

なお、本研究成果は2026年3月30日(月)公開のChemical Science誌にオンライン掲載されました。

論文名:Enzymatic oxygen reduction dominates overpotential-driven thermogenesis in mitochondria(ミトコンドリアの過電圧駆動型熱産生は酵素的酸素還元反応が支配する)
URL:https://doi.org/10.1039/D5SC06693J

詳細はこちら


ミトコンドリア呼吸鎖の電子移動を電気回路としてモデル化し、過電圧によるエネルギー損失が熱産生の起源となることを示した図。主な発熱部位は複合体IVである。