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哺乳類ゲノムが明かす重層的なインド太平洋域の交流史~ジャコウネズミが記録していたアラビア海から東アジアまで広がる海上交易ネットワーク~(低温科学研究所 助教 大舘智志)

2026年7月13日

ポイント

●ジャコウネズミのゲノム解析から、インド洋・東南アジア・東アジアを結ぶ複数の移動ルートを解明。
●イラン、イエメン、東アフリカ、インド洋島嶼と、西アジア・東南アジアを結ぶ歴史的交流を示唆。
●住家性の小型哺乳類の遺伝解析から、古代〜近世のインド太平洋地域の人類の交流史の解明に期待。

概要

北海道大学低温科学研究所の大舘智志助教、同大学大学院情報科学研究院の長田直樹准教授らの研究グループは、ジャコウネズミの全ゲノム及びミトコンドリアDNA解析により、インド洋から東南アジア、日本列島に至る広域的な移動の歴史を明らかにしました。

ジャコウネズミは、人間の住居や港湾周辺に生息することが多く、人の移動や海上交易に伴って分布域を広げてきた小型哺乳類です。本研究では、東アジア、東南アジア、南アジア、中東、東アフリカ、インド洋島嶼を含む広大な分布域から採集した試料を用い、ミトコンドリアDNA解析に加え、全ゲノムに基づく解析を行いました。

その結果、日本列島の九州の個体群と琉球列島の個体群が異なる起源を持つことが改めて示されました。また、東南アジア島嶼部や中国南部、日本列島南部の個体群は、東南アジア半島部〜中国南部に由来する系統と近縁である一方、アラビア半島や東アフリカ、マダガスカルなどインド洋西部海域の個体群は、インド亜大陸西部に由来する系統と密接な関係を持つことが判明しました。さらに、ミャンマーやスリランカには独自性の高い系統が存在し、それぞれ地域的に長期間隔離された進化史を持つ可能性が示唆されました。

加えて、イエメンとマダガスカル・コモロ諸島との関係、イランと東アフリカ沿岸個体群との近縁性、さらにモーリシャスやレユニオン島における東南アジア系統の存在などから、ジャコウネズミの移動は単一の拡散ではなく、古代から近代に至る複数回の人間活動に伴って、重層的かつ繰り返し行われてきたことが示唆されました。

本研究は、小型哺乳類のDNA情報を用いて、アラビア海から南シナ海、西太平洋へとつながる「インド太平洋海域世界」の形成史や、人類の交易・移住・文化交流の歴史を読み解く新たな手法を提示するものです。

なお、本研究成果は、202671日(水)公開の Zoological Journal of the Linnean Society にオンライン掲載されました。

論文名:Genomic structure and biogeographic history of the Asian house shrew, Suncus murinus-montanus species complex (Eulipotyphla, Soricidae), reveal multiple dispersal events across southern Asia and the Indian Ocean region(ジャコウネズミ Suncus murinus-montanus 種群(真無盲腸目・トガリネズミ科)のゲノム構造と生物地理学的歴史:南アジア及びインド洋地域における複数回の分散イベントの解明)
URLhttps://doi.org/10.1093/zoolinnean/zlag101

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イラン南西部のジャコウネズミ。イラン南西部と東アフリカ・ザンジバル島の個体群は高い遺伝的近縁性を示した。