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細菌の細胞分裂を司る「分裂酵素複合体」の動作原理を解明~抗菌薬開発に新たな標的、FtsW-FtsIの協調メカニズムを世界で初めて提示~(薬学研究院 教授 市川 聡)

2026年10月28日

ポイント

●細菌が細胞分裂時に新しい細胞壁を作る仕組みを世界で初めて解明。
●二つの酵素FtsWとFtsIが、「二つの構造状態」を切り替えて協調して働くことを発見。
●短鎖型lipid II誘導体が酵素活性を阻害することを示し、新規抗菌薬の創薬標的として有望。

概要

北海道大学大学院薬学研究院の市川 聡教授らの研究グループは、デューク大学のソクヨンリー氏との国際共同研究により、細菌の細胞分裂に必須な「FtsWIQLB複合体」がどのように細胞壁を作り上げるのか、その分子メカニズムを明らかにしました。

細菌は細胞分裂の際、ペプチドグリカンを新しく合成し、これが細菌の細胞壁となります。この合成はFtsWとFtsIという二つの酵素が協力して進めますが、両者がどのように連携して「糖鎖の伸長」と「ペプチド架橋」を同期させているのかは長年の謎でした。本研究では、クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)、AlphaFoldによる構造予測、生化学的解析、化学合成したlipid II誘導体などを組み合わせ、FtsWとFtsIが「down構造(不活性型)」と「up構造(活性型)」の二つの状態を切り替えながらペプチドグリカンを合成することを発見しました。特に、FtsIに存在する「coupling helix」がFtsWの働きを直接制御することを示し、両酵素が物理的に連動していることを明らかにしました。さらに、糖鎖が11ユニット以上の長さにならないと架橋反応が始まらないことを発見し、細胞壁合成の「長さの条件」を初めて提示しました。これらの成果は、抗菌薬耐性が世界的に深刻化する中、FtsWIQLB複合体が新たな抗菌薬標的となり得ることを示すものです。

なお、本研究成果は、2026年10月22日(木)公開のNature Communications誌にオンライン掲載されました。

論文名:Molecular basis of coupled peptidoglycan synthesis by the FtsWIQLB divisome complex from Vibrio cholerae(コレラ菌 FtsWIQLB ディビソーム複合体によるペプチドグリカン合成協調機構の分子基盤)
URL:https://doi.org/10.1038/s41467-026-78795-0

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FtsWIQLB活性化の作業モデル。左:不活性な「down」構造では、FtsI活性部位は隠され、ペプチドグリカン合成反応は起こらない。中央:lipid II結合によりFtsWが重合を開始し、FtsIペリプラズムドメインが約90°回転して活性部位が露出する。右:活性型「up」構造では、糖鎖の繰り返し数が閾値(n > 11)を超えるとFtsI活性部位に到達し、重合と架橋反応が進行する。