2026年10月22日
ポイント
●覚醒剤を反復投与したマウスで、軽度の炎症刺激と急性ストレスが過剰な行動反応を抑制。
●炎症刺激にはCOX-2関連経路、急性ストレスにはTNF-αとドパミン反応の変化が関与。
●軽度の急性炎症が、幻覚や妄想に関連する脳内過程を調節する可能性を示唆。
概要
北海道大学大学院医学院博士課程の篠原陸斗氏、修士課程の松本理沙氏(研究当時)、及び同大学大学院医学研究院神経病態学分野精神医学教室の石川修平助教、加藤隆弘教授らの研究グループは、覚醒剤であるメタンフェタミン(METH)を繰り返し投与し、薬物に対して過剰な行動反応を示すようになったマウスを用いて、軽度の炎症刺激と急性ストレスがこの反応に及ぼす影響と、その仕組みを調べました。
統合失調症などでみられる幻覚や妄想といった精神症状には、炎症が関与することが知られています。炎症は一般にこれらの症状を悪化させる方向に働くと考えられてきましたが、感染や発熱に伴って症状が一時的に軽減したとの報告もあり、その影響については十分に分かっていませんでした。本研究では、こうした臨床的な現象に着想を得て、実際に臨床でみられる炎症反応の程度を参考に、従来の動物実験と比べてごく低用量のLPS(細菌由来の成分で、炎症反応を引き起こす物質)と、マウスの動きを一定時間制限することでストレスを与える急性拘束ストレス(単回2時間)を用いました。その結果、いずれの処置もMETHによる過剰な行動反応を抑制しましたが、その仕組みは異なっていました。低用量LPSではCOX-2に関連する経路が関与した一方、急性拘束ストレスでは、脳内の炎症性物質TNF-αの増加とMETHによる線条体におけるドパミン応答の低下が関与する可能性が示されました。また、これらの処置は自発運動や認知機能などの他の行動指標には明らかな影響を与えず、単なる体調不良や活動性低下によるものではないことが示されました。
さらに、急性拘束ストレス後には脳から分離したミクログリアでTNF-αが増加し、TNF-αを線条体に直接投与した場合にも過剰な行動反応が抑えられました。これらの結果は、軽度の炎症や急性ストレスが、条件によって幻覚や妄想に関連する脳内過程を調節する可能性を示す基礎的知見です。その仕組みをさらに明らかにすることで、精神症状と炎症との関係の理解が進むことが期待されます。
なお、本研究成果は、2026年10月5日(月)公開のBritish Journal of Pharmacology誌にオンライン掲載されました。
論文名:Low-dose LPS and acute restraint stress attenuate behavioural sensitisation in methamphetamine-sensitized male mice(低用量LPS及び急性拘束ストレスは、メタンフェタミン感作雄マウスの行動感作を抑制する)
URL:https://doi.org/10.1111/bph.70697
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